せやさかい・083
あれは、たぶん夢。
ほら、夜中にダミアが枕もとまでやってきて「王妃は言ってないから『パンが無ければお菓子を食べればいい』なんて」と言うて、今夜は一人で寝たい気持ちとかメランコリックな後姿でベッドを下りて、うちに来てから初めて一人で寝てしまった。
コトハちゃんも「わたしのところにも来てなかったわよ」と言う。
「どうしたん、ダミア?」
抱き上げて聞くと「ニャーー」と、いつものようにネコ語で返事。
じゃれついたり、一人で遊んだり、ご飯を出したげたらまっしぐらにとんできたり、他の様子は変われへん。
せやけど、次の夜になっても、わたしのベッドには寄り付かんと、自分のキャットハウスに収まりよる。
「調べてみたんだけどね」
頼子さんにメールで伝えると、あくる日の部活で膝を詰めてくる。
「なにか、思い当たることがあるんですか?」
「メインクーンというのはマリーアントワネットが飼っていたネコなのよ」
「ほんまですか!?」
「うん、フランス革命が起こって、王党派の人たちが万一のことを考えてアメリカに国王一家を亡命させようとアメリカのメイン州に屋敷を確保したの。それで王妃お気に入りの調度品といっしょに飼い猫も避難させたのよ。けっきょく女王は間に合わずに処刑されちゃうんだけどね、飼い猫のメインクーンは、いつも二階の窓から大西洋を見つめては、王妃の到着を待っていたそうよ」
「ほんまですか!?」
「ニャーー」
頼子さんが答える前に、ダミアが返事。
「その通りニャーって、言ってる!」
留美ちゃんが感激して、ダミアをかっさらってもみくちゃにする。
「フニャーー フニャーー」
「そうか、そんなに嬉しいか」
「いや、息ができなくて苦しがってるから(^_^;)」
「あ、ごめん」
「プニャ~」
「それが、このダミアや言うんですか?」
ダミアは、まだ生後二か月ほどや。歴史は苦手やけど、フランス革命が二か月よりももっと前やいうことぐらいは分かってる。おそらく二百年以上昔のことや。
「ネコはね、百万回生まれかわるんだよ」
頼子さんがシミジミ言う。
「あ、ちょっと震えてる」
「「え?」」
留美ちゃんがモフるのを止めて、ダミアが震えてるのに気付く。
「子ネコには寒いんだよ、この気候は」
この二三日の雨で、かなり涼しくなってきた。本堂裏の座敷は他の部屋よりも涼しい。人間には快適やけども、子ネコにはつらいのかもしれへん。
「そうや、コタツを出しましょ!」
伯父さんから、寒なったらコタツと言われてたんで、さっそく……と思ったら、コタツが見当たれへん。
ガサゴソやってると、テイ兄ちゃんが覗きにきて「コタツやったら、本堂の納戸の中にある」と教えてくれて、文芸部の三人で取りに行く。
「いやあ、天女さんが現れたかと思たわ」
須弥壇の裏から本堂の内陣に出てくると、外陣に集まってた檀家婦人会(いうてもお婆ちゃんばっかり)の視線が集まる。
「アハハ、天女ですか(n*´ω`*n)」
例えが古いと思うかもしれへんけど、内陣の欄間には彫刻が施したって、天女が何体か彫られてる。門徒さんには馴染みらしい。
「テイくん、今からより取り見取りやなあ」
「いや、そんなんちゃいます。中学の部活に、奥の部屋貸してるだけですわ」
「ホホ、そない言うて、鼻の下伸びてるでえ」
「「「「「「「ウヒャヒャヒヤ」」」」」」」
コタツを探してると知れると、お婆ちゃんたちも手伝ってくれた。
コタツは五つあったんで、一つをもらって、四つを組み立ててお婆ちゃんらに使ってもらう。
コタツを出すと、ダミアは中に入って出てこうへんようになった。名前を呼んでやると「ニャーー」と返事はするけど、そのうち、返事もせんと寝てしまう。やっぱり、ネコにはコタツが良く似合う。
ダミアを蹴飛ばさんように気を付けながらトワイニングを頂きました。
その晩、ダミアといっしょに夢にとんでもない人が現れた……!