オモクロは、略称こそ変わらなかったが、正式名称は変わった。
オモシロクローバーではない。
想色クロ-バーである。
むろんセンターは、奇跡のようにのし上がってきた吉良ルリ子である。
マユが、このことを知ったのは、その週の日曜日であった。
週末は拓美に体を貸してあるので、マユは魔界の補講に出ることになっている。
悪魔概論Ⅰは、悪魔にとって基本中の基本である。
以前にも述べたが、悪魔とは、もともと天使であった。人間の魂の救済方について、他の天使と意見が合わなくなって、ケンカになってしまった。それがサタンである。三位一体であるので、天使に盾突くことは神に刃向かうことである(三位一体とは、父=神 子=キリスト 精霊=天使の三つが同じであるということ)ので、多勢に無勢、サタンは天界から出ざるをえなかった。で、悪魔概論は、サタン流の人間救済方の基本が示されている。頭の良い小悪魔たちは、丸暗記して、十三日間の実習をそつなくこなして、悪魔になっていく。
しかし、マユは筆記試験の段階で落ちてしまう。魔法のかけ方という問題では、いつも救済という点ではなく、面白いことという点に比重を置いて答えてしまうからだ。
たとえば、こんな問題があった。
◎IT時代における、悪魔的な人間救済について、八百字以内で答よ
マユは、こう答えた。スマホの写メに同時進行機能の魔法をかける。なぜならば……以下略。
デーモン先生は、この答で、マユの落第を決めた。写メに同時進行機能の魔法をかけると、被写体が現実の時間に沿って変化していく。ベッピンさんを撮って、数時間後に見てみればスッピンの寝顔が見えてしまう。おいしそうなスイーツを撮って、数時間後に見れば、消化されたそれなりの姿に見える。マユは、それに臭いの再生魔法をかけることもデコメ付きで答え、あまりの不真面目さに落第させられた。
で、これは、人間界に飛ばされてから実際にやってしまった。その相手がルリ子であった。
「そのルリ子に雅部利恵(天使名ガブリエ)がイッチョカミして、アイドル界を引っかき回しておる。マユ、おまえは人間界にもどって、なんとかしなさい」
デーモン先生は、きっぱりと命じた。
「でも、わたし、休日は拓美って幽霊さんに体貸してるんです」
「ケルベロスのポチを貸してやる」
「え、あたしポチになっちゃうんですか!?」
「しかたないだろう。小悪魔が使える人体は一つだけなんだからな」
「そんな、片脚あげて電柱にオシッコするなんて、ヤですよ!」
「ポチには、変身能力もある。ポチの中に入ってから人間に化ければいいだろう」
「でも、先生。ポチってリアルだから、お風呂にも入らなきゃならないし……トイレにも行かなきゃなんないしい!」
「仕方ないだろう。これがマユの試練なんだ」
「そんな、リアルトイレなんて考えらんない!」
「それなら、拓美クンと相談して、一つの体に同居することだな」
「……もう」
「それに、マユはフェアリーテールの世界もやり残したままだからな」
「あれは、バグっちゃったから」
「バグは、いずれ回復する。取りあえずは、天使とタイマンはってこい」
「タイマンっすか……」
「怠慢こいちゃだめだぞ」
「……オヤジギャグだし……」
「来月の十三日は金曜日、悪魔の力がみなぎる吉日だ。存分に戦ってこい! ガハハハハ……」
不敵で、無責任な高笑いを残して、デーモン先生は消えてしまった。足もとではポチが嬉しそうにお座りしていた……。