大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

永遠女子高生・5《瑠璃葉の場合・1》

2019-11-21 05:09:45 | 時かける少女
永遠女子高生・5
《瑠璃葉の場合・1》        




 久々のスポットライトは眩しすぎた。

 目の前が一瞬ホワイトアウトし、舞台も観客席も見えなくなった。
 しかし、わき起こる拍手で、自分は、まだアイドルなんじゃないかと、一瞬錯覚した。
 錯覚は、直ぐに覚めた。拍手の対象が微妙に違う。

 意地を張るんじゃなかった。後悔したが後の祭りだ。

 2001年から二年間大ヒットした『ラ・セーヌ』実写版の制作発表に呼ばれ、瑠璃葉は大先輩のつもりでいた。だから、舞台挨拶は実写版リメークの主役秋園楠葉(あきぞのくずは)といっしょにという条件を出した。
 そして、舞台に出る寸前に、ごく自然に楠葉の前に進み、先頭を切って舞台に出た。

 観客の拍手は、瑠璃葉のすぐ後ろに控えめに現れた楠葉に対するものだった。屈辱感が増しただけだ。

 瑠璃葉は、高三の秋に新作アニメ『ラ・セーヌ』の声優のオーディションに応募して、あまたのプロを押しのけて主役ロゼットの役を射止めた。
『ラ・セーヌ』は、19世紀のパリが舞台で、ムーランルージュの踊り子たちが時代に翻弄されながらもたくましく生きていくという『ベルばら』の再来と言われたほど流行ったアニメだった。

 それが十三年の後、時代を現代に置き換え、主人公も日本から来た留学生が、アルバイトからスターになっていくストーリーになっている。
 その主役が、AKR48から抜擢された秋園楠葉である。まだ17歳で、瑠璃葉の半分ほどにしかならない現役の女子高生でもあった。
 これが結(ゆい)の新しい姿でもある。

 楠葉は、なかば結の意識で、往年のアイドル声優であった瑠璃葉に、もう一度自身を取り戻してもらって、一流の俳優になってもらいたいと願っていた。
 だからプロデューサーに頼んで、瑠璃葉にも役を付けてもらった。多少の無理はあったが楠葉が演ずる主人公のエミの姉という設定で、最初は妹のエミが留学を捨てて役者になることに反対するが、最後は、その情熱と才能に気づき、応援する側に回るというものであった。

 MCに続いて、楠葉のスピーチが始まった。楠葉がマイクを持っただけで歓声があがる。

「こんにちは、みなさん。正直楠葉はビビッています。研究生からチームRになって半年。総選挙でも47番目だったわたしに、こんな大きなチャンスを頂いて、ほんと足が震えてます」
 可愛いよー! 大丈夫! 観客席から声援と拍手があがる。
「ありがとうございます。えと、この『ラ・セーヌ』は、瑠璃葉さんが声優をされて一世風靡した作品で、『ベルばら』の再来とまで言われた名作です。今度設定は変わりますが、前作。そして、前作の主役でいらっしゃった瑠璃葉さんの名を汚さないよう頑張りますので、よろしくお願いします。あ、それから瑠璃葉さんには、今回特別出演していただくことになっています。どの役かは内緒ですけど、みなさん、どうぞ楽しみになさってください。では、瑠璃葉さん、どうぞ」

 楠葉は、瑠璃葉にマイクを渡した。拍手はきたが楠葉ほどではない。
 なにか二分ほど話したが、瑠璃葉は、その間も観客の注目の大半が楠葉に向いているのがいたたまれなかった。

 プロディユーサー、監督の話が続き、全員の挨拶が終わって舞台袖に引き上げるとき、自分の前を歩いた助演女優の三島純子に敵意を覚えた。そして体をよけるフリをして、その女優に足をかけた。
 三島純子は「ア」っと声を上げて、前を歩く楠葉に倒れかかり、楠葉は、はずみで舞台から転げ落ちた。

 会場は騒然とし、瑠璃葉も心配顔をつくろったが、胸にはどす黒い快感が湧いていた……。
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小悪魔マユの魔法日記・101『オモクロ居残りグミ・1』

2019-11-21 04:59:58 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・101
『オモクロ居残りグミ・1』    



 そこの研究生にしてください!

 香奈(マユ)はクチバシッテしまった……。

 と、かくして、オモクロ初のユニット「オモクロ居残りグミ」が生まれた。
 担当プロデューサーは別所。メンバーは加奈子を中心とした六人。他にクチバシッテしまった香奈を含め、研究生六名のバックで始まった。デビュー曲『居残りグミ』は加奈子自身が作詞、作曲は、なんとHIKARIプロの専属作曲家の大久保の弟子塩田が、敵に塩を送るの精神で引き受けた。会長の光ミツルが、業界全体の活性化のために応援してくれたのだ。週刊誌は「光ミツル、素敵に塩を送る」と特集を組んだ。当然オモクロのチーフプロディユ-サー上杉は面白くはない。

 《居残りグミ》
 今日のテストも赤点で、予想通りの居残り学習、居残り組。
 夕陽差す中庭のベンチ、待ってるキミが大あくび、その口目がけて投げるグミ。
 見事に決まってストライク……とはいかずに、キャッチする手は左利き。

 ニッコリ笑ってグミを噛む。ゼリーより硬く、キャンディーよりは柔らかく。
 その食感に、キミが戸惑う。まるで、ボクが初めてコクった時のよう。
 あの、ハナミズキの花の下、左手だけを半袖まくり、ソフトボールの汗滲ませて、ボクをにらんでいたね。
 あとの言葉困って、ボクが差し出すグミ、キャンディーと勘違い。グニュっと噛んでキミが笑う。
 歯ごたえハンパなグミ、グミ、おもしろグミ、グミ、だけど心に残る愛おしさ。
 居残りグミ、グミ、おもしろグミ、グミ、青春の歯ごたえさ~♪

 加奈子の詞を読んだとき、香奈(マユのアバター)は笑ってしまった。まるで四コママンガのようなコミカルさ。歌詞の中味は、加奈子自身の体験。学校じゃ、いつも居残り組。オモクロでも居残りみたくなって、開き直っての作詞。これに塩田の曲が付くと、コミカルな中にイカシたノリがあり。別所は、この曲を大手製菓会社に持ち込み、その会社で売り上げ不振になっていた、グミのCMソングにしてもらった。

 最初は、スーパーの前や駐車場。おもクロの原点に立ち返っての出発だったが、発売三週目にはオリコンの五位に食い込み、タマリのMCで有名な習慣歌謡曲に出演。急遽、プロモーションビデオを作ることになった。

 そして、波紋は意外なところから広がってきた。ほんとうに、オチコボレ天使の後始末は大変だ。

 香奈のアバターの中でぼやくマユであった……。
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せやさかい・095『海老煎餅と要介護3』

2019-11-20 11:33:21 | ノベル

せやさかい・095

『海老煎餅と要介護3』 

 

 

 要介護3か……

 

 二枚目の海老煎餅に手を伸ばしながらお祖父ちゃんが呟く。

 マクドで菅ちゃんの兄妹喧嘩を聞いてしもた。

 お母さんが要介護3になって、菅ちゃん一人では手が回らんようになった。菅ちゃんは、午後から休みを取って妹さんと相談してたんや。

 菅ちゃんが泣きごと言うてるようにも、妹さんが薄情なようにも聞こえた。

 人が感情的に言い合いしてるのは嫌いや。そばで聞いてるだけでも心がささくれ立ってしまう。

 うちの両親もたいがいやと思う。なんせ父親が失踪して、お母さんの実家に転がり込んでるんやさかい。

 けども、ここに至るまでお父さんとお母さんがケンカしてるとこなんか見たことない。せやさかい、お祖父ちゃんがお母さんをたしなめてるとこを見ただけで足がすくんでしもた……て、言うたよね。

「要介護3言うたら、二十四時間の介護が必要な状態で、特養の入所を考えるレベルやなあ」

「とくよう?」

「特別養護老人ホーム、ベッドから起きたりトイレに行ったり食事をしたり風呂に入ったり、日常生活全てに介護が必要なレベルや。言うても、特養なんて、すごい順番待ちや……菅井先生も大変なんやろなあ」

 菅ちゃんはポカと休みの多い先生や。大事な連絡忘れたり、いらんこと言うてしもたり、言わなあかんこと言わへんかったり。

 せやけど、お母さんの介護があったことを知ると、ちょっと可哀そう。

 

「特養のアキもなかなかないし、妹さんに助けを求めて逆ギレされてしまいはったんかもなあ……檀家さんにも、そういうお家があるで」

「みんな、どないしてはるのん?」

「いろいろや、市役所に相談したり、家族でもめたり、金策に走りはったり……介護には時間とお金がかかるよってなあ」

「そうなんや……」

 あたしも、しんみりしてしもて、海老煎餅のおかわりに手ぇ出そ思たら、お煎餅入れた菓子皿が空になってた。

 ああ……。

 よっぽど残念そうな顔してたんやろね、「ああ、すまん、好物やから、つい食べてしもた」 お祖父ちゃんが申し訳なさそうに頭を掻いた。

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乃木坂学院高校演劇部物語・41『竜頭蛇尾』

2019-11-20 06:33:59 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・41   

『竜頭蛇尾』 

 
 竜頭蛇尾という言葉がある。

 小学校六年の時に覚えた言葉。
 最初は、やる気十分なんだけど、後の方で腰砕けになっちゃって、目的を果たせない時なんかに使う言葉。
 担任のシマッタンこと島田先生が、三学期の国語の時間に教科書全部やり終えちゃって、苦し紛れのプリント授業。その中の数ある四文字熟語の一つがこれだった。
「意味分かんな~い」
 クラスで一番カワユイ(でもパープリン)のユッコが投げ出す。
「……いいか、先生はな、野球選手になりたかった。それも阪神タイガースの選手になりたかった。そのためには、高校野球の名門校聖徳学園に入学しなければならなかった。ところが受験に失敗して、Y高校に行かざるを得なかった。ところがY高校の野球部は、八人しかいない。入れば即レギュラー。でもなあ、Y高の野球部って三十年連続の一回戦敗退。それで悩んでたらさ、バレー部のマネージャーのかわいい子に誘われっちまってさ……」
 島田先生は、これで自分が野球選手になり損ねたことをもって『竜頭蛇尾』の説明をしようとした。
 でも、これで言葉の意味は分かったけど、大失敗。『お里が知れる』という言葉も同時に子ども達に教えることになった。
 それまで、先生は――維新この方五代続いた、チャキチャキの江戸っ子よ!――というのが売りだった。実際住所は神田のど真ん中だった。
 でも聖徳学園高校もY高校も大阪の学校。神田生まれで阪神ファンなんて、もんじゃ焼きが得意料理ですってフランス人を捜すよりむつかしいし、東京の人間の九十パーセントを敵に回すのと同じこと。それに自分自身がデモシカ教師であると言ったのといっしょ。野球の腕だって、PTAの親睦野球でショ-トフライを顔面で受けたことでおおよその見当はついていた。
 五代続いた江戸っ子だってことが怪しいのも、わたしは早くから気づいていたんだ。
 島田先生は、五年生の時からの持ち上がり。
「先生は、神田の生まれで、五代続いた江戸っ子なんだぜ」
 と、カマしたもんだから、家に帰って言ったのよ。
「ね、今度の担任の島田先生は神田生まれの五代続いた江戸っ子なんだよ!」
 すると、おじいちゃんが前の年に亡くなったひい祖父ちゃんを片手拝みにして言ったのよね。
「ほんとの江戸っ子は、そんなにひけらかすもんじゃねえんだぜ」
「だって、先生そう言ったもん」
 すると、おじいちゃんは紙に二つの言葉を書いた。
――山手線と朝日新聞が書いてあった。
 純真だった(今だってそうだけど)まどかは、その紙を先生に見せて読んでもらった。
「ん、これ?」
「はい、読んでください」
「ヤマテセン、アサヒシンブン」
 と……発音した。ショックだった!
「ヤマノテセン、アサシシンブン」
 と……わたしの家族は発音する。

 前置きが長い……これは、わたしがいかに『竜頭蛇尾』という言葉に悩んでいるかということと、シマッタン先生を始め小学校生活に愛着を持っていたかということを示している。
 ちなみに、はるかちゃんは体育だけこのシマッタン先生に習っていたけど嫌い。
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ファルコンZ:17『友愛の三天使』

2019-11-20 06:25:58 | 小説6
ファルコンZ 17
『友愛の三天使』        

 
 
☆……三丁目の星・5
 
 ミーシャが狙撃されてしまった……!
 
 ミーシャは、ソ連のスナイパーによって心臓近くの動脈を撃たれ、即死状態だ。
「コスモス、ナノリペア! バルスはスナイパーを追え! ただし殺したらあかんど……」
 マーク船長は河内弁で怒鳴った。
 
 即死でも、脳は数分間は生きている。マーク船長は、ミーシャの胸に直接電子注射でナノリペアを注入した。それも周りの人間には気づかれずに。
「……マーク船長、ミーシャの鼓動が戻ってきた!」
「オレの処置は内緒にな。この三丁目星の医療技術じゃ治されへん傷やったからな」
 
 ミーシャは病院に搬送され、奇跡的に命を取り留めた……ということになった。
 スナイパーの方は、ロイド犬のポチが先導し、バルスが人間離れした能力で(もともとアンドロイドである)追いつめ、腕をへし折り、奥歯に仕掛けた自殺用の毒薬を奥歯ごと抜いて掴まえた。
「殺されるより、痛い!」
 スナイパーは泣き言を言った。
「モロゾフ君。君の仲間は何人ぐらい日本に潜伏してんねん?」
「……!?」
「名前当てたんで、びっくりしてるんか。おれはな、顔見ただけで、お見通しなんや……メンバーは……分かった」
 マーク船長は、アナライザーで、スナイパーの心を読み取ると、コスモスのCPUを通して日本中にいるアンドロイド、ガイノイドに指令した。
 
――全ての工作員を確保し、後楽園の会場まで連行せよ――
――腕の一本ぐらい、へし折ってもいいか?――
――あかん、無傷で連れてこい――
 
 そして、十時間をかけて(なんせ、新幹線も無い時代である)米ソ中の工作員三百名あまりが後楽園に集められた。所持しているピストルはモデルガンに、ナイフはゴムに変えられていた。むろん歯に仕込んだ毒薬は龍角散に、所持している毒薬はグラニュー糖に変えてある。
 では、ミーシャを狙撃したモロゾフが、なぜ、腕をへし折られたか?
 バルスは「緊急を要したので」とシラっと言ったが、バルスがミーシャをオシメンにしていることは明らかだった。
 
 そうして、連行された工作員と、米ソの大使(なぜか、その日のスケジュールをSJK観覧に変えられていた。中国は、まだ国交がないので工作員のボス)同席の中、SJKのコンサートが行われた。
 むろん一般席も一人百円という格安で、一般客に開放され、数万人がひしめいた。
 その日は、特別に米ソ中の国歌から始まり、それぞれの民族音楽を含め、二十曲余りの曲を歌いあげた。
「ほら、みなさん、こんなに良い笑顔をなさっています。わたしたちは、難しい政治のことは分かりません。でもみなさんは音楽を通じて、こんなに一つになりました。ステキです。ありがとうございました!」
 後楽園球場は満場の拍手になった……。
 
 それからJポップは世界中に広がり、派生系を生んだ。ロック風、コサック風、京劇風、さまざまなものが生まれ、人々の心は、世界的規模で多様化しながら一つになった。
 そして、二年後には核兵器が廃絶され、冷戦は終わり、銀河連邦でもまれに見る平和な惑星になった。
 
「ほんなら、あとは、あんたらで上手にやりぃや」
 そう言残し、ファルコン・Zのメンバーは三丁目星を後にした。
 むろん、ミナコとミナホの卒業公演は世界中三十カ所で盛大に行われ、数千万の人々が直接に、数十億人の人がラジオやテレビ、レコードで、それを聞いた。
「あとは、陽子。あなたに頼んだよ!」
 陽子とミナコ、ミナホが抱き合う像はお台場に高さ三十メートルの像になってつくられ、『友愛の三天使』の名を付けられた。
 除幕式は、元内閣総理大臣鳩山一郎がテープを切った。
「まあ、鳩ぽっぽで幕がしめられたんや。ちょっと緩いけど、めでたいこっちゃ」
 
 ファルコン・Zは、次の星をめざした。
 
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永遠女子高生・4《久美の変化》

2019-11-20 06:15:30 | 時かける少女
永遠女子高生・4
《久美の変化》        





 久美は律儀に教育実習をこなしていた。

 S高校の男子生徒たちに絡まれたのはショックだったが、立ち直りは早かった。
「あたりまえだ」と、小百合は思った。
 明くる日、二の丸高校に来てみれば、お行儀のいい生徒ばかり。自分の出身校も乃木坂で、都内でも有数の名門校。S高などは、久美の視界には入っていない。ちょっと怖い思いをしたけど、自分が勤めるのは、二の丸や乃木坂のような学校と決めてかかっている。

 しかし、久美が教師になって、そんな学校で教師を続けられるのは可能性として低く、また、一生をアマちゃんのお嬢ちゃん先生でいることは、小百合になった結(ゆい)には、いけないことに思えた。

「先生、ちょっといいですか?」

 若干ギクっとしたが、久美は、声を掛けた小百合に笑顔を返した。
「なあに、藍本さん?」
 そう応えたとたん、意識はS高校に飛んだ。

「びっくりしないで、飛んでるのは意識だけだから、先生の姿も、わたしの姿も、ここでは見えないわ」

 そこは、学校の玄関だった。メガネをかけたベテランらしい先生が二階の職員室から降りてきた。玄関には、先日久美の襟元を掴もうとしたアンチャンがふてくされ、その横に恐縮しきった母親とおぼしきオバチャンが立っていた。

「どうも、田中君のお母さん、わざわざお越し頂いて恐縮です。どうぞ、このスリッパにお履き替えください」
 メガネ先生は、旅館の番頭さんのようにスリッパを揃えた。
「岸本先生、応接へ……そう、先生も同席してください。あ、お母さん、お履き物はお持ちになってください。ときどき無くなることがありますので。良樹、先生すぐに行くから、お母さんと応接にな」
「……おう」
「おう……はないだろう。良樹にとっても大事な日なんだ。ほんの二十分ほどだ。ちゃんとしろ」
「うん」
「うんじゃない。はい、だろう」
「はい……」
 岸本という若い教師が田中親子を応接に案内しているうちに、メガネ先生は、事務室にお茶をくみに行った」

「ちょっと、早回しにするわね」

 まるでビデオが編集されたように、泣きはらしたオバチャンと、フテった良樹が応接から出てきた。
「退学届けはいただきましたが、こうやって担任をさせていただいたのも縁です。良樹の人生は、まだまだこれからです。ご心配なことがありましたら、いつでもお電話ください。とりあえずは、明日、城南のハローワークで、良樹を待っております」
「オレ、んなダリーとこいかねえし」
「来なくても、時間までは待ってる。先生ってのはな、無駄足踏んでナンボなんだよ。しつこくフォローするからな」
「ちぇ……」
「そんな顔すんな。最後だ、ちゃんと挨拶!」
「ありがとうございました……これ、良樹!」
 良樹は、コクリと頭を下げた。
「よし、じゃあ、先生、明日待ってるからな」
「では、先生、失礼いたします」

 親子は玄関を出て行った。若い岸本は踵を返して職員室に向かおうとした。

「岸本、親子が校門を出るまで見送るんだ」
「え、だって……」
「言われた通りにしろ」

 田中親子は、校門のところで、どちらともなく振り返った。メガネ先生は深々と頭を下げ、岸本先生も、それに倣った。

「辞めてく親子の半分以上は、ああやって振り返るんだ。そのときオレたちが見送っていなきゃ、寂しいだろ。最後まで見届けるのが教師だ」

 そこまで見て、久美はため息をついた。
「いい先生だわね……」
「もう少し見ていよう」
 校長が出てきた。迎えのタクシーが来て、どうやら出張のようだ。
「ご苦労様です、行ってらっしゃいませ」
 メガネ先生は、校長にも慇懃に頭を下げた。岸本先生は、ちょっとバカにしたような顔になった。
「オレは、あの校長個人に頭を下げたんじゃない。S高の校長職に頭を下げたんだ」
「いっしょじゃないですか。あいつ、ここ面倒だから、一年残して早期退職するってもっぱらの評判ですよ」
「評判じゃない……事実だ。しかし、あの男が校長である限り礼は尽くさなきゃならん。学校で大事なのは秩序だ。教師が否定したら、もう仕舞だ」

 久美は、ますます感心した。

「でも、あの先生の本心は、こうなんだよ」
 久美の頭に、メガネ先生の思念がダウンロードされるように入ってきた。

――これで15人目だ。あと3人というところか。240人入って、卒業するのは100人足らず。オレたち一年生の担任は、無事に首を切るのが仕事。明日良樹はハローワークには来ない。そこまで不義理をさせれば、学校の評判を落とさずに、良樹との腐れ縁が切れる。さあ、指導記録の作文にかかるか……この岸本は、こういう機微が分からん。苦労するだろうが、もう大人だ。オレの知ったこっちゃない。新任指導の実績はつくった。あとは自分で地獄を見るんだな――

 久美はショックだった。これがメガネ先生の心……。

「そう、こういう学校が大半なんだよ。久美先生、やっていける?」

 教育実習が終わるころ、久美は先生になることを、とりあえず断念した。
 小百合の中の結は思った。久美のことは、取りあえずここまで。
 
 まだまだ手の掛かるのが残ってる……。
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小悪魔マユの魔法日記・100『オモクロヒットの裏側・5』

2019-11-20 06:03:42 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・100
『オモクロヒットの裏側・5』     



「センター外されたからか?」

 上杉は直球で聞いてきた。

「それもあります。やっぱアイドルだったら、センター狙いたいのは当然じゃないですか」

 加奈子も、直球で答えた。

「でも、吉良ルリ子のセンターなんて、かわりっこないぞ。加奈子だって分かってるだろう」
「ええ、今のオモクロじゃね」
「今のオモクロが気にいらんのか」
「これはこれでいいと思う。でも、わたしは、わたしたちのオモクロがやりたいんです。想色クロ-バーじゃなくて、おもしろクローバーが」
「そりゃあ、加奈子、ただの嫉妬だ」
「違うわ。ルリちゃんたちは、力もあるし、オモクロにも愛情もってくれてます。だから美紀ちゃんだって、体はって香奈ちゃん護ってくれたわ」
「だったら、加奈子もがんばってセンター奪い返してみろよ」
「おもしろと、想色じゃ、もんじゃ焼きとフランス料理。けして一緒にはならない。上杉さんだって、そこんとこ分かって、もんじゃ焼きにフランス料理の真似させてるんでしょ」
「フランス料理じゃ、いやか?」

「いや」

「はっきり言うなあ。お互い、ロケバスで寝泊まりしながら這い上がってきた者同士だから、はっきり言うけど、もう、うちはフランス料理に変わっちまったんだ。いまさら、もんじゃ焼きにはもどれん」
「だから、別のユニットで出して欲しいの。フランス料理の手伝いもちゃんとするから」
「いま、うちの事務所に、別のユニット作る余裕はない。やっとAKRの背中が見えてきたところなんだ」
「……じゃ、わたしオモクロ辞める」
「それはダメだ。まるで、新しいオモクロが、古いオモクロを追い出したみたいで、スキャンダルになる!」
「迷惑はかけないわ」

 オフィスのドアが急に開いて、加奈子が飛び出してきた。その風圧で香奈(マユのアバター)は一瞬目をつぶるほどだった。

「待って、カナちゃん!」
 一瞬マユは、自分のことが呼ばれたのかと思ったが、すぐに勘違いであることが分かった。
「別所君……!?」
「ああ、見間違えたかな?」
 それは、ちょっと前まで上杉のアシスタントをやっていた別所だった。
「やっと、プロディユーサーのはしくれになった」
「おめでとう。苦労が実ったわね」
 加奈子は、素直に喜んでやった。
「カナちゃんの苦労だって実らなくっちゃ」
「……え?」
「オレが、引き受ける。新しいユニット」
「別所くんが……失敗したら、この事務所にいられなくなるよ」
「思ってないだろ、失敗するなんて」
「だけど、別所君を巻き込めないよ」
「この仕事、リスクはつきものだ。オレ、カナちゃんの思い入れは本物だと思っている」
「……ありがとう、別所君!」

 廊下の端で手を取り合う二人を、上杉が怖い顔で睨んでいた。

「勝手にしろ……」

 そう呟いて、上杉は廊下の反対方向に行ってしまった。

 やっぱり、オチコボレ天使がやるお節介は、どこかで歪みが出てくる。オモクロのヒットで雅部利恵は大満足だろうが、こんなことには気も付いていないだろう。

「ユニットの名前は『オモクロ・E残り組』にしよう!」
「居残り組?」
「ううん、アルファベットのEを付けて、E残り組!」
「いいね、それでいこうよ『オモクロ・E残り組』!」

「わたし、そこの研究生にしてください!」

 香奈(マユ)はクチバシッテしまった……。
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魔法少女マヂカ・102『レパートリーが増えていく』

2019-11-19 15:06:31 | 小説

魔法少女マヂカ・102  

 
『レパートリーが増えていく』語り手:マヂカ 

 

 

 秋の深まりとともに調理研のレパートリーが増えていく。

 

 色気よりも食い気の女子高生だ、イワシ雲の崩れを見ただけでしらす丼を連想する。連想したのはスパイのくせに三日で馴染んだサムだけど、作って食べることに目の色が変わったのは友里たち三人だ。

 上げ出汁豆腐(友里の提案) トン汁(清美の提案) もんじゃ焼き(ノンコの提案)

 思いつくままに三日が過ぎた。

「今日はジャーマンポテトにしよう」

 調理室から連日いい香りがするので、徳川先生が見に来てくださって、北海道バターの差し入れをくださった。

 それで、サムが提案したのだ。

 ジャーマンポテトの材料は、ジャガイモ ベーコン 玉ねぎ にんにく そしてバター。

「バターが決め手なのよ、そのバターの良いのが手に入ったんだから、ジャーマンポテトしかないわね」

 玉ねぎはストックがあるので、ジャガイモ ベーコン ニンニクの三つで間に合う。

「よーし、今日は、あたしが買って来る!」

 ノンコが立候補。

 他のメンバーは、面談があったり委員会があったりで、揃うのを待って買いに行っては調理の時間が無くなる。

 

「と……これは男爵だよ」

 

 意気揚々とノンコが買ってきたものを開けると、ベーコンとにんにくは問題なかったが、肝心のジャガイモが男爵なのだ。

「え、ジャガイモだよ?」

「ジャガイモにはね、メークインと男爵があって、男爵は過熱すると、直ぐに崩れるのよ」

「「「??」」」

 三人娘は分かっていない。

「うん、チンしてから炒めるんだけど、炒めるときにマッシュポテトになってしまう」

「脂ぎったポテトサラダになっちゃうね」

「し、知らなかったああああ!」

「大丈夫よ、あたしたちも知らなかったんだから(^_^;)」

 友里と清美が慰める。

「じゃ、じゃがバターにしよう!」

「じゃがバターは男爵だもんね!」

「そうなんだ!」

 ノンコの笑顔が戻った。

「でも、真智香もサムも詳しいねえ」

「「うんうん」」

 

 アハハハ、何百年も生きてる魔法少女だとは言いにくい……。

 

 ジャーマンポテトも簡単だけどじゃがバターは、いっそう簡単!

 洗って、包丁で十字に切込みを入れ、ラップに包んだやつを五分間のチン!

 あとは、切りこんだところにバターを乗っけて出来上がり!

 調理研では食べきれない量なので、家庭科準備室の徳川先生や顧問の安倍先生におすそ分け。

 

 ああ、有意義な部活だったあ!

 

 四人揃って校門を出ると、ここのところ趣を増している夕陽が心地い。

 シャワシャワ シャワシャワ

 足元で落ち葉たちが陽気な音を立てる。

「今度は、なに作ろっかな~(o^―^o)」

 子どもっぽく落ち葉を踏みしだいていたノンコが振り返る。

「そうねえ、簡単に作れるってことが肝だと思う」

「うんうん、花嫁修業には、ちょっと早いしね」

「夜食にでも作れるようなのがいい」

 サムが誘導する。

 わたし的には松茸なのだが、戦前、湧くように松茸が採れた時代ではないんだ。

「真智香、松茸食べたいと思ったでしょ?」

 う、読まれてる。

「いや、さすがにそれは……」

「よし、簡単に食べられる松茸的なものを考えてみよう」

「「「うう~楽しみいい!」」」

 女子高生らしく、キャピキャピとしてみる。

 なんとも楽しい。

「「ん?」」

 サムと同時に気が付いた。

 日暮里の駅の方から馬の蹄の音が聞こえてくる。

 

 パカラパカラ パカラパカラ パカラパカラ パカラパカラ

 

 しだいに近づいてくるが、気が付いているのはわたしとサムだけだ。

 友里たちは気づいていない、いや、いっしょに下校している生徒や通行人の誰も意識していない。

 

 角を曲がって、そいつは現れた。

 

 それは、駅前で銅像になっている太田道灌であった!

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乃木坂学院高校演劇部物語・40『風雲急を告げる視聴覚教室!』

2019-11-19 05:53:25 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・40   

 『風雲急を告げる視聴覚教室!』 

 

 ガッシャーン!

 木枯らしに吹き飛ばされた何かが窓ガラスに当たり、ガラスと共に粉々に砕け散った。視聴覚室の中にまで木枯らしが吹き込んでくる。

 タギっていたものが、一気に沸点に達した!

「ジャンケンで決めましょう!」
 全員がズッコケた……。

「青春を賭けて、三本勝負! わたしが勝ったら演劇部を存続させる! 先輩が勝ったら演劇部は解散!」
「ようし、受けて立とうじゃないか!」
 風雲急を告げる視聴覚教室。わたしと、山埼先輩は弧を描いて向き合う!
 それを取り巻く群衆……と呼ぶには、いささか淋しい七人の演劇部員と、副顧問!

「いきますよぉ……!」
「おうさ……いつでも、どこからでもかかって来いよ!」
 木枯らしにたなびくセミロングの髪……額にかかる前髪が煩わしい……
 
 機は熟した!

「最初はグー……ジャンケン、ポン!」
 わたしはチョキ、先輩はパーでわたしの勝ち!
「二本目……!」
 峰岸先輩が叫ぶ!

「最初はグー……ジャンケン……ポン!」
 わたしも先輩もチョキのあいこ……。
「最初はグー……ジャンケン……ポン!!」
 わたしはチョキ、先輩は痛恨のパー……。
「勝った!!」
 バンザイのわたし。
「む……無念!」
 くずおれる山埼先輩。

 と、かくして演劇部は存続……の、はずだった。

「クラブへの残留は個人の自由意思……ですよね、柚木先生」
 ポーカーフェイスの峰岸先輩。
「え……ちょっと生徒手帳貸して」
 イトちゃんの生徒手帳をふんだくる柚木先生。
「三十二ページ、クラブ活動の第二章、第二項。乃木坂学院高校生はクラブ活動を行うことが望ましい。望ましいとは、自由意思と解することが自然でしょう」
「そ、そうね……じゃ、クラブに残る者はこれから部室に移動。抜ける者はここに留まり割れたガラスを片づけて、掃除。せめて、そのくらいはしてあげようよ。わたしは事務所に内線かけてガラスを入れてもらうように手配するわ。じゃ……かかって!」
 わたしは先頭を切って部屋を出た。着いてくる気配は意外に少ない……。
「ジャンケン大久保流……と、見た」
 すれ違いざまに峰岸先輩がつぶやいた。


 狭い部室が、広く感じられた。
 わたしと行動を共にした者は、たった二人。
 言わずと知れた、南夏鈴。武藤里沙。

 タヨリナ三人組の、乃木坂学院高校演劇部再生の物語はここに始まりました。
 木枯らしに波乱の兆しを感じつつ、奇しくも、その日は浅草酉の市、三の酉の良き日でありました……。
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ファルコンZ・16『SJK47』 

2019-11-19 05:45:51 | 小説6
ファルコンZ・16 
『SJK47』         

 
 
☆……三丁目の星・4

 警察だ、電波法並びに放送事業法違反で、家宅捜査する!
 
 銭形警部のような、トレンチコートの刑事が宣告した。同時に、何十人という鑑識……それにCIA(アメリカの秘密情報部)も混じっていた。
 電話、ラジオ、テレビと、そのアンテナ。電波の受信発信に関する物は全て押収され、事務所は水洗トイレのタンクの中まで調べられた。
 
――マークプロ、ソ連のスパイか!――
 
 夕刊のトップ記事に、デカデカと出た。
 
――マークプロからは、何も出ず。警察の勇み足!?――
 
 朝刊では、早くも、当局の捜査を疑う記事に変わった。
 
 明くる日にはアメリカの国家航空宇宙諮問委員会(NASAの前身)の実験失敗の影響と、陰謀説が流された。前者はアメリカの、後者はソ連の噂と疑心暗鬼であった。
 とにかく、世界中のラジオやテレビからは、毎日周波数(チャンネル)を変えて、マークプロの陽子やザ・チェリーズの映像や歌が流れてくるのである。
 少しずつではあるが、世界中にファンが増え始め、Jポップという言葉で呼ばれ出した。
 JにはJAPANとJACKの両方の意味がある。
 
「音楽で、世界が変わるかもしれないんですね!」
 アメリカとソ連の記者のインタビューを受けた後で、陽子が感動して言った。
「まだ、まだ序の口、これからが本番だ。それから、今の記者の半分はCIAとKGBだ。コスモス、あいつらが仕掛けていった盗聴機を全部回収しといてくれ」
「わかりました」
 コスモスは、そう言うと一枚のメモを陽子に見せた。
――記者からもらったカメオを見せて。喋らずに――
 陽子が、黙って差し出したカメオの中に盗聴機が組み込まれていた。そして、事務所からは二十個の盗聴機が発見された。
 マーク船長は涼しい顔をしている。
「バルス、この企画、実行に移してくれ」
 企画書は、陽子やミナコにも回された。
「SJK47!?」
「うん、新宿47のこと」
「これって……そう、AKBのパクリ。ただ違うのは、インターナショナルを目指すとこ。将来的には世界の女の子でアイドルユニットを作ろうと思う」
「アイドル……ハンドルなら分かるんですけど」
 陽子が江戸っ子らしい聞き方をした。
「そう、ハンドルだよ。世界を平和の方向に向けるためのね」
 
 それは、マークプロ最初の後楽園球場ライブで、発表された。
 
「今日は、こんなにたくさんの人たちに集まっていただいて、ありがとうございます。最後に、みなさんに、お知らせがあります。ミナコちゃん、ミナホちゃん、どうぞ」
「マークプロは、新人を発掘することになりました。一人や二人じゃありません……」
「47人です!」
 三人の声が揃い、後楽園球場にどよめきが起こった。
 
「これは、まったく新しい歌手のグループです。英語でユニットと表現すれば分かっていただけるかもしれません」
「例えれば、宝塚歌劇団に近いものがありますが、わたしたちが目指すのは、誰もが歌えてフリが覚えられて……うまく言えませんけど、ミナホお願い」
「世界中がハッピーになれるような歌を、みんなで歌っていこうと思います。歌がうまくなくても、ダンスが苦手でもいいんです。なにか光る物を持っている人を求めています」
「いわば、根拠のない自信と夢を持っている人たち。そこから始めます」
「年齢は12歳から25歳の女性。一応です。光っているひとなら大歓迎!」
 
 そうやって、SJK47が始まった。
 
 一年のうちに三期生まで入り、総勢141人の大所帯になった。二期生からは外国人もチラホラいる。選抜メンバーの15人程をマスコミに売り出し、Jポップはあっと言う間にインターナショナルになった。
 中には、CIAやKGBのスパイも混じっていたが、ことエンタメに関して優秀であれば、お構いなし。
「実は、このミーシャはKGBのスパイなんですよ!」
 そんなことを、ミナコなどのリーダーは平気で言う。言われた本人はビックリするが。観客はジョークだと受け止める。
 マークプロには、政治的な秘密なんて何にもない。自分たちも観客のみんなも楽しくやっているだけだ。スパイは三人公表された。アメリカのジェシカ、中国のミレイ。でも、みんな和気アイアイだった。
 そんなある日、新宿のSJK劇場公演のあとの握手会で悲劇がおこった。
 
 ズドーーーーーーン!
 
 ミーシャが狙撃されてしまった……!
 
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永遠女子高生・3《久美・2・友ゆえの試練》

2019-11-19 05:36:12 | 時かける少女
永遠女子高生・3
《久美・2・友ゆえの試練》       




 
「これ、本当に藍本さんが書いたの?」

 久美は放課後、小百合を相談室に呼び出した。
 どうも、印象が合わない。小百合は豊かな髪の毛を、今時珍しいお下げにして両肩に垂らしている。前髪もほどほどで、制服は、そのまま学校紹介の見本に使えそうなくらいキチンとしている。
 顔つき、特に目は親しみと慈愛と言って良いほどの親近感に満ちている。
 だから、暫定的に、この「先生は、バー〇ンですか?」は、誰かが小百合の名を騙ってイタズラしたと考えたのだ。

「はい、わたしが書きました」

 期待を裏切る答が返ってきた。用意していた次の質問をする。
「じゃ、どういう意味かしら?」
「読んで頂いたとおりです」
 小百合は、しごく冷静に答えた。
「伏せ字になっているから分からないわ。こういう聞き方をするのは失礼じゃないかしら」
「わたしは、マニュアルみたいな質問をしては失礼だと思ったんです。それをお読みになって、頭に浮かんだお答えがいただけたらと……そう思ったんです」

 久美の頭には〇の中に入る字がフラッシュし、表情が固くなった。

「こんな質問に……」
「こんな質問に?」
「答える義務はありません」
「分かりました。そして松原先生が答える義務はありません。じゃ、失礼します」
 小百合の早い反応に久美は着いていけなかった。
「藍本さん」
「いいんです。先生がバージンじゃないことは分かりました」
「藍本さん!」

 久美は、顔を赤くして立ち上がった。

「わたしが聞きたかったのは、別の言葉です。失礼ですけど、先生にはトラウマがあるように思いました。失礼します」
 久美には、とっさにかける言葉が無かった。

 夕方を待って、小百合は学校を出た。久美が出てくる寸前を狙った。電柱三つ分後ろの久美には、下校する生徒の一人にしか見えていない。目立つお下げは下ろしてある。
 駅近くの公園まで来たとき、S高校の男子生徒たちがたむろしている気配を感じた。S高校は二の丸高校に比べれば、いささか品が落ちるが、ワルというほどの者は少ない。
 小百合は、S高の男子たちのリビドーを少しばかり刺激してやった。公園の入り口あたりに来ると、S高の男子たちの視線が突き刺さってきた。
「よう、二の丸のおじょうちゃんよ」
「シカトしないで、お話してくんないかなあ」

 怯えたフリをしていると、公園の入り口まで来て、小百合を取り巻き始めた。さすがに胸やお尻を触る者はいなかったが、気安く髪や腕に触れてくる。嫌がり怯える風を装って男子生徒たちの欲望はかき立てるが、ちらほら通りかかる通行人は見て見ぬふりである。

 久美は揺れていた。小百合が絡まれているのは分かっているが、足がすくんで動かない。小百合は、もう少し男子生徒たちを刺激した……直接心に入り込んで、男たちの自制心を緩めてやった。
 一人が、ぎこちなく腕を掴むと、公園の中に引きずり込もうとした。小百合は声を出さずに抗った。

「う、うちの生徒に、何をするの!」

 久美が、思い切って声を上げた。そして公園の入り口まで駆けた。
「なんだ、おめえセンコーかよ」
「……いや、そのリクルート姿は教育実習だな」
「いい度胸してんじゃん」
「痛い目に遭うぜ、ネーチャン」

 久美は、襟元を掴まれそうになり、反射的にのけ反った。高校生の時の体験がフラッシュバックする。ちょっとした段差に引っかかって尻餅をついてしまった。
「オネーチャンの太ももも、なかなかそそるじゃんかよ」
「一人じゃ足んないから、二人いっぺんにいくか。おい、真部のアニキに車で来てもらえよ」
「おお、まかしとけ!」
 一人の男子が、スマホを取りだした。
「もしもし……」
 と、一声言ったところで、スマホは男子もろとも吹き飛んでしまった。他の男子たちはあっけにとられた。
「今の、あたしの回し蹴りだから。今なら、その子だけで勘弁してあげる。それとも自分でやってみなきゃ分からないオバカさんかしら」
 そう言いながら、小百合は手早く髪をヒッツメにした。
「なめたマネしやがって」
「そうよ、今のはほんのマネだから。これから本気でいくからね……」

 久美には、何が起こっているのか、よく分からなかった。小百合が二三度体を捻ると、男たちは、放り出されたサンマのように転がった。
「まあ、骨が折れるようなことはしてないから。一週間も痛めば治るわ。松原先生いきましょう」

 少しは大変だと思い始めたようだ。二週間じっくりかけて、考え直させよう。

 小百合は、腹をくくった。
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小悪魔マユの魔法日記・99『オモクロヒットの裏側・4』

2019-11-19 05:21:52 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・99
『オモクロヒットの裏側・4』    



 長い横断歩道を渡る間に、マユは加奈子の心に魔法をかけた。

 いや、魔法と言えるほどのものでもない。
 おもしろクロ-バー時代の曲をちょっと元気よくハミングしてみたのだ。
 横断歩道を渡りきるころには、加奈子の心には、あるアイデアと共に、小さな勇気が湧いていた……。

 事務所に着くと、加奈子はオーディション担当のところにマユを連れて行き、マユの書類を無事に受理させた。

 そして、加奈子は、真っ直ぐにプロデユーサーのオフィスのドアを叩いた。
「上杉さん、ちょっと、お話いいですか」
「ちょっと待ってくれ。で、問題はだな……」
 上杉は、ルリ子担当のマネージャーと話をしていた。
「そう、曲のイメージですよね。ソロってことになると……」
 その言葉で分かった。上杉はルリ子のソロデビューを考えているのだ。加奈子は聞こえないふりをした。
「あ、すまん。加奈子、少し廊下で待っていてくれないか」
「あ、はい」

 廊下に出てきた加奈子は能面のように無表情だった。

「あら、まだいたの?」
 加奈子は、能面からベテランアイドルの顔に戻って香奈(マユ)に聞いた。
「あ、これから、制服の採寸やらグループ分けとかあって……」
 香奈(マユ)の言うとおり。ロビーから、スタジオへ上がる階段、廊下まで、合格者とその付き添いで一杯だった。
「大変ね……この中から選抜メンバーに残るのは……香奈(マユ)ちゃん、付き添いの人は?」
「あ……家は、両親そろって反対されて……」
「そっか……わたしも、そうだったな」
「加奈子さんも、そうだったんですか」
「うん、こうやってブレイクするまではね。今は親も喜んでる。メジャーになれたし、一応選抜メンバーだし」
「そ、そうですよ」
「最後尾のね……」
「加奈子さん……」
「わたし、ポジティブよ。病院じゃ少しヘコンデたけど、さっき横断歩道渡ってたら、なんだか昔のオモクロのころの曲が、ローテーションしてきちゃって、元気出てきたの。最後尾ってことは、もう、これ以上後ろはない」
「ですよね!」
「でも、努力とかで、前列に出られるほど、今のオモクロは甘くない。ちょっと考えてんの」

 そのとき、ルリ子のマネージャーが出てきた。

 香奈(マユ)は、ぺこんとお辞儀をしたが、マネージャーは空気がそよいだほどにも感じていなかった。マユの香奈も、加奈子のことさえ。加奈子は、すかさず入れ違いにオフィスに入った。
「なんだ、加奈子、呼んだ覚えはないぞ」
「廊下で待ってろって、いったじゃないですか」
「え、そうだっけ……あ、もしもしオモクロの上杉です。先ほどアポとった……」
 上杉は、加奈子に構うこともなく、スマホを構えた。
「わたしの話を聞いてよ、上杉さん」
「あ、うちの吉良ルリ子のことで……あ、AKRさんと打ち合わせ中……じゃ、はい、十分後ってことで」
 どうやら相手は放送局のエライサンのよう。アポを取りながら、ソデにされたようだ。
「アハ」
 思わず加奈子は笑ってしまった。ソデにした上杉がソデにされた。
「笑うな。じゃ、五分だけ」
「十分じゃないの?」
「オレにだって、五分くらい休憩する権利はある」
「あ、そ」
「手短に言え」
 上杉は、タバコに火を付けながら言った。
「わたしユニット組みたいんです」
「ゲホ……なんだと!?」

 オフィスのみんなの視線が集まった……。
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せやさかい・094『海老煎餅買って意外な人を見かける』

2019-11-18 12:50:00 | ノベル

せやさかい・094

『海老煎餅買って意外な人を見かける』 

 

 

 前にも書いたけど、堺の中学生が大和川を超えるのは、ちょっとした冒険。

 

 お使いも終わって帰るだけやねんけど、なんやもったいない。

 五千円のお小遣いももろたしね。

 お祖父ちゃんにお土産買うことを思いつく。

 千円くらいでお祖父ちゃんが喜んでくれそうなもの。

 食べ物がいい。「お祖父ちゃん、一緒に食べよ」と持って行って、しばし祖父と孫娘の会話……これでいこ!

 

 これは専光寺さんに着くまでに考えてたこと。

 

 で、なにがええやろと考えてるとこで着いてしもた。

 ご本尊の『見返り阿弥陀』さんに感心してると、坊守さんがお茶とお菓子を出してくれはった。

 出してくれはったんは海老煎餅! えびせんべいと平仮名で書くようなもんと違う、漢字が似つかわしい海老煎餅!

 個包装の袋を見ると『一枚に海老一匹をまるまる使ってます』とプリントしてある。

「お寺は、甘いものばっかりでしょ。くつろいでお話するときなんかは、お煎餅お出ししてますのん」

 なるほど、檀家周りでもろてくるのとか、法事の粗供養なんかは圧倒的にお饅頭的な和菓子が多い。あれを全部食べてたら、お寺のもんは全員糖尿病になる。

「いやあ、美味しいですねえ」

 言うと、坊守さんも喜んで、いっしょにお煎餅を齧りはった。

 郵便屋さんが来て、坊守さんが外しはった隙を狙ってスマホで検索。難波のデパートで売ってることを確認した。

 

 それで、難波の百貨店に寄って、十枚入り千百円のを買う。

 ニ三千円のもあるんやけど、もらった五千円からの無理のない金額と、年寄りに無理のない量。

 海老煎餅をゲットしてマクドに向かう。

 秋風が爽やかなんで、バリューセットの載ったトレーを持ってオープンデッキへ。

 ハンバーガーとポテトをほちくり食べてると、オープンデッキの向こうから聞き覚えのある声がしてくる。

 

「そんなこと言わんと、協力してくれよ」

「いやよ、預かったらズルズルになるのん目に見えてるもん!」

「声おおきい」

「おおきい声出させるのは兄ちゃんのほうよ!」

「せやから、声おとせ……」

「お母ちゃんの面倒は任せとけ言うたんは兄ちゃんやんか! それをいまになって!」

「声大きい!」

「わたしかって仕事があるねん!」

 男の人の声は担任の菅ちゃんや……今日は、昼からいてへんかって、終礼は春日先生がしてくれた。ときどきあることなんで、気にも留めてなかったんやけど、女の人……たぶん妹さんに会ってたんや。

 声を落としたんで全部は聞こえへんけど、お母さん、要介護3、手ぇいっぱい、介護施設、とかの単語が聞こえてくる。

「仕事との両立は、もう限界やねん!」

 菅ちゃんが切れ気味に言うと、妹らしい人はプイっと行ってしまう。菅ちゃんは、一瞬追いかけようとするけど、二三歩行ったとこで肩を落として地下鉄の方に行ってしもた。

 ひょっとして、ヤバいとこ見てしもた?

 振り返った菅ちゃんと目が合いそうになったので、亀みたいに首をすっこめるあたしでした。

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永遠女子高生:02《久美・1・先生はバー○ンですか?》

2019-11-18 07:01:09 | 時かける少女
永遠女子高生:02        
久美・1・先生はバー〇ンですか?》 




 結は、2003年藍本小百合という二の丸大学附属高校の女生徒になった。

 役割は分かっていた。多分あの大天使ガブリエルみたいなのがダウンロードしてくれたんだろう。
――久美を学校の先生にしないこと――
 これが命題だった。

 小百合が、まだ結だったころ、久美は高校の先生になることを夢見ていた。
 その久美が、大学の四回生になって、教育実習にやってくる。

「起立、礼、着席!」

 日直の安西君がかけ声をかける。指導教諭の藤田先生の横で、久美が緊張して、虫歯が痛いのを我慢しているような笑顔で立っている。
「えーー、今日から教育実習に来られる松原久美先生だ。今週は授業の見学。来週の三時間を実際に授業していただく。君らは、よそ行きにする必要はないが、必要以上に困らせるようなことがないように。じゃ、相原先生。一言ご挨拶を……」

 久美は、ますます虫歯痛の笑顔になって挨拶した。

「この二週間、勉強させていただく松原久美です。よろしく。大学は、想像が付くと思いますが、二の丸大学です。将来……いえ、来年は採用試験に通って、必ず地歴公民の先生になります。どうぞよろしく。さっそくですが、みんなと仲良くなりたいのと、あとの自己評価の資料にしたいので、わたしへの質問や印象を書いて下さい。名前は書いても書かなくってもいいです」

 緊張はしているが、さすがに高校時代から演劇部だったので、声量と発声は、とてもいい。まず結はひっかけてみることにした……。

 アンケートを五分ほどで取り終えると、久美は藤田先生の授業を熱心に聞き、メモをとって、ときどき頷いたりして、いかにも初々しい教育実習生になった。首からぶら下げているIDが、まるでバーゲンの印のように思えて可笑しかった。しかし、小百合という子は、そんなことは、まるで表情に出ない、一見優等生のお嬢さんである。

「え……」

 昼休みに、実習生ばかりの控え室で、お弁当を食べながら、アンケートを読んで息が止まりそうになった。
 ほとんどのものは、「がんばってください」「よろしくお願いします」「うちのクラブ見に来てください」など。変わったところでも「先生はモームスのダレソレに似てますね」と、いったところで、実習生としての久美そのものに踏み込んだものは無かった。そして、そのほとんどが無記名だった。

 その中に、ただ一つ奇妙と言うよりショックなものがあった。

――先生は、バー〇ンですか?――

 というものがあった。そして、きちんと名前が書いてあった。

 藍本 小百合。

 久美は顔を赤くしながらも、対応を考えた……。
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乃木坂学院高校演劇部物語・39『なにかがタギリはじめた……』

2019-11-18 07:00:42 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・39   
『なにかがタギリはじめた……』 


 
 
 ガタガタガタ……気の早い木枯らしが、立て付けの悪い窓を揺すった。

 二三人が、そちらに目をやったが、すぐに机の上のメモリーカードを見つめる視線の中に戻った。
「再生してみますか……」
 加藤先輩が小型の再生機を出した……ほんとは気の利いたカタカナの名前がついてんだけど、こういうのは携帯とパソコンの一部の機能しか分からないわたしには、そう表現するしかない。
「マリ先生が再生するなって……」
「じゃ、マリ先生……」
 わたしは持って行き場のない怒りに拳を握って立ち上がった。
「そう……じゃ、マリ先生は、全てを知った上で辞めていかれたのね」
 柚木先生が腰を下ろした。木枯らしはまだ窓を揺すっていたが、もう振り返る者はいなかった。

「あとは山埼、おまえががやれ」
 峰岸先輩は山埼先輩にふった。
「……今日は結論を出そうと思う」
 山埼先輩が立ちながら言った。

――結論……なんの結論?

「部員も、この一週間で半分以上減った。このままでは演劇部は自滅してしまう。倉庫も、機材ごと丸焼けになってしまった。今さらながら乃木坂学院高校演劇部の名前の重さとマリ先生の力を思い知った」

――思い知って、だからどうだと言うんですか……。

「忍びがたいことだが、まだオレたちが乃木坂学院高校演劇部である今のうちに、我々の手で演劇部に幕を降ろしたい」
 みんなウツムイテしまった……。

「……いやです。こんなところで、こんなカタチで演劇部止めるなんて」
「気持ちは分かるけどよ、もうマリ先生もいない、倉庫も機材もない、人だって、こんなに減っちまって、どうやって今までの乃木坂の芝居が続けられるんだよ!」
「でも、いや……絶対にいや」
「まどか……」
「わたしたちの夢って……演劇部ってこんなヤワなもんだったんですか」
「あのな、まどか……」
「わたし、インフルエンザで一週間学校休みました。そしたら、たった一週間でこんなになっちゃって……駅前のちょっと行ったところが更地になっていました。いつもパン買ってるお店のすぐ近く。もう半年以上もあの道通っていたのに、なにがあったのか思い出せないんです」
 なにを言い出すんだ、わたしってば……。
「ああ、あそこ?」
「なんだったけ?」
「そんなのあった?」
 などの声が続いた。外はあいかわらずの木枯らし。
「今朝、グラウンドに立ってみました。倉庫のあったとこが、あっさり更地になっちゃって。他の生徒の人たちはもう慣れっこ。体育の時間、ボールが転がっていっても平気でボールを取りにいきます。あたりまえっちゃ、あたりまえなんですけど。わたしには、わたしたちには永遠の思い出の場所です」
「なにが言いたいんだ、まどか」
「今、ここで演劇部止めちゃったら……青春のこの時期、この時が、駅前のちょっと行ったところの更地みたく、何があったか分からない心の更地になっちゃうような気がするんです。たとえ燃え尽きてもいい。今のこの時期を、この時間を、あの更地のようにはしたくないんです……」
「まどか……」
 里沙と夏鈴が心細げに引き留めるように言った。
「それは感傷だな……」
 峰岸先輩が呟いた。

 わたしの中で、なにかがタギリはじめた……。
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