数多の鋲を打ち数多の修復の痕跡のある扉は《絶対に開けてはならぬ》という堅固さであるが、それは見せかけだけであって、いとも簡単に打ち破ることが可能な扉である。(アーチ型のレンガの設えは紀元前からのもので、メソポタミア文明のころから多用されている)
木材と煉瓦・・・ヒト属は《火》の利用から始まったが、この覗き穴から見た裸婦が手にもったアウアー灯は近代のものである。
彼女は文明を翳している。
つまり、覗き穴から見る光景は時空(歴史)を圧縮しているが、歴史の連鎖は覗き穴の前で覗いている人に至るまで、性行為そのものから端を発しているということである。
大股開きの裸身は女性であるが男性の存在があって後の女の態である。
女はアウアー灯(ガス燈)を掲げている。この意味は女が無抵抗であることを暗示している、と同時に女性が光であり存在の始まりであるという見解を含んでいる。
秘密にすべき本能の露呈は、明らかにすべき人類の原初である。
好奇心を持ち立ち止まり覗かなければ見ることのない景色は、驚愕を誘い社会生活に於いてはルール違反として厳しく罰せられる。
『与えられたとせよ:(1)落ちる水(2)照明用ガス』は、水と光に生まれた生物の誕生秘話であり、誰でも知っているが誰もが暴露を否定する生命の根拠である。
写真は『DUCHAMP』ジャニス・ミンク(www.taschen.com)より