「老兵は死なず」(野中広務回顧録)の中に、「日本国民は、ひとつの流れが出来ると全員がそれに乗ってしまい、恐ろしいほどの潮流を生むことがある」、と書いてあったと、東京に住む友人の一人が、小泉、橋本、亀井,麻生の総裁選に触れたくだりを紹介してくれた。
豪華客船が沈み始めた。日本人乗客には、「皆さん、飛び込んでますよ」といえば、日本人は、海に飛びこむ、という世界的に有名なジョークがある。「赤信号、皆で渡れば怖くない」ということばがある。これも程度問題で、最近は幼児を連れて、赤信号を平気で渡る母親をよく見かける。親がこれでは、子供の行く末が恐ろしい。
閑話休題。サブプライムローン問題が、世界の金融市場を混乱させている。事態を放置すれば、経済全体に悪影響が出ることを怖れた、米FRBは、FFレートの0.5%切り下げと、公定歩合をここ1ヶ月の短い期間に、二度、合計1.0%引き下げるという荒療治に出た。
為替市場が、まず、予想外の利下げに敏感に反応した。ドルは、1ユーロ=1.41ドル台まで値下がりした。米国の隣国カナダで、カナダドルが、1:1のパリティー相場を離脱して、1ドル=0.9984 カナダドルで取引された。カナダドルの上昇は、アメリカ人にドルの目減りを実感させたようだ。
ドルの目減りが、この先さらに進むと見た投機資金が、商品市場へ流れた。その結果、原油、金、非鉄金属、小麦、大豆など農産物相場が軒並み上昇した。NY原油先物(WTI)は、11月限月先物相場へ移行したが、バレル81.62ドルで取引された。10月物相場は、目先バレル89ドルまで値上がりするとの見方もあると今朝のWSJ紙は紹介している。
金相場が、27年ぶり高値、一時、1トロイオンス、747.10ドルを記録した。あと利食い売りが出て、731.40ドルへ小幅下げたが、高値圏であることに変わりがない。日本画では、砂子という金粉を使う。砂子の値段が高騰していると、先日の日本画教室でも生徒たちが話題にしていた。入れ歯、差し歯の金歯も当然のことながら値上がりしている。
値上がりのことをインフレが進むという。最近、WSJ紙を読んでいて、インフレという文字にお目にかからぬ日がなくなった。デフレ脱却が謳い文句だった日本でも、我慢の限界だろうか、食料品の値上げ発表が一斉に出てきた。「赤信号、皆で渡れば怖くない。」
皆が飛び込むから飛び込む。皆が値上げするから値上げする。値上げすると売れ行きが落ちる。値段は据え置いて量を少なくする。実質的に値上げである。店頭に並ぶパンが小さくなった。小麦の値上げに抵抗しているからだ。大豆の国際相場が急騰している。やがて豆腐もコッペパンのように小さくなるだろう。安全、安心だけは忘れないでいただきたい。(了)
神戸酒心館「酒ばやし」
江嵜企画代表・Ken