味方玄・猪熊佳子ト―ク会風景
江嵜企画代表・Ken
能楽師、味方玄・日本画家、猪熊佳子ト―ク・イベントが京都東急ホテルで17日午前11時から開かれ、楽しみにして出かけた。この日はあいにくの雨模様だったが、70名を超す盛況で、「能と日本画」というユニークな組み合わせもさることながら、お二人のお人柄から来る魅力的な語りに加えて、味方さんの朗々たる謡いも花を添え、幽玄の世界を堪能した。
会場には「松風」に登場する潮汲み女二人の小面、扇子、桶、烏帽子、一方、味方家の稽古場「玄庵」の鏡板の松の絵完成に至る下絵などが用意されており、興味しんしん、参加者は開演前に熱心に見入っていた。
猪熊佳子日本画教室の仲間も10数名が駆けつけた。トークのあとは京料理「たんくま」弁当、そのあとは抽選会である。当選者が決まるたびに歓声が上がった。和気あいあいの中、猪熊佳子先生を囲んで記念撮影のあと散会した。
なぜ今回のようなイベントに発展したのか。それは木具師、橋村萬象さんと猪熊佳子さん二人展で茶器具に猪熊佳子さんが描かれた絵を見て、味方玄さんが是非、能舞台の鏡板に絵を猪熊さんにお願いしたいと思ったからだとエピソードが紹介された。依頼を受けた猪熊佳子さんは個展開催を目前に控えて多忙を極めていた。日本画家は常に一人で絵を描いている。こういう機会はいろいろな経験をする意味でも面白いかもしれないと引き受けましたとトークで答えた。
先の木具師、萬象さんとの二人展と味方さんの鏡板をつくるタイミングとたまたま合ったことも幸いした。万事、人と人と出会いというものは、本来そういうものなのかもしれない。ところが、出合いそのものは、人それぞれに、複数回訪れている。問題は、それを掴むか掴まないか。自分自身で、掴めるか、掴めないか、ほんのちょっとした差が、その後のそれぞれの人生を大きく変える。今回もそんな出会い、ご縁のサンプルAなのかもしれないと思った次第である。
味方玄さんの話は「松風」に出てくる潮汲み女の小面の面の説明からはじまった。正面右は姉、左は妹。ほとんどおなじだが、左は口元に丸みがあり、若干若向きに、右はわずかにすがすがすがしい。表情に微妙な差がある。能の小道具はいろいろある。面のみは必ず自分の手で持ち運びする。面には神様が宿っておられるからだと言う味方さんの言葉が特に印象に残った。会場に展示された面は作者が違う。右の小面は200年前に作られた。多くの人の手を経て今手許にあると説明された。
猪熊佳子さんは、鏡板に絵を描くのは初めてだった。いろいろな昔からの鏡板の絵を時間をかけて調べた。10分の1の下絵を描いて味方さんに見せた。即OKが出た。ところがそのあと次々と味方さんから希望が出て来た。幹をもう少し太くとか、幹の穴を2つにとか、苔をもう少し載せて古風に見せて欲しいなどいろいろ出された。正直大変だった。しかし、味方さんのお気もちを入れつつ、進めている内に、一人でい描いた絵との違いを実感するようになった。この仕事をお受けして、いま、本当によかったと感謝していますと、話された。
味方玄さんは、締めくくりの挨拶の中で、私の命は限りが有ります。鏡板の松は残ります。4年前描いていただいてから、松は毎日成長しているのが分かります、という言葉が印象的だった。
味方さんの話しを受けた猪熊佳子さんは、心の中で松は育ち、思い出の中で松は根付いていきます。文化というものも同じだと思います。日本の文化、京都の文化が発展し、根づいていってくれることを祈っていますと話を結ばれた。
ホテルの外は激しい雨が道路を叩いていた。味方玄さんと猪熊佳子さんお二人から大切な心のビッグなプレゼントをいただいて、元気をもらって、帰路に着いた。(了)