作家、井上荒野さん大いに語る
江嵜企画代表・Ken
直木賞作家、井上荒野さんを囲む読書会「読売読書 芦屋サロン」が12月6日(水)
午後2時から芦屋ルナホールで開かれ楽しみにして出かけた。280人の参加者があった
と後で事務局の方に聞いた。会場の様子をいつものようにスケッチした。井上荒野さ
んは1961年東京生まれ、08年に「切羽へ」で直木賞を受賞している。先月から読売夕
刊で「よその島」連載が始まった。
この日は、11月10日付け掲載、掌編小説「百合中毒」、20数年前に家族を捨てた父
が、身勝手な理由で家に舞い戻ってくる話からやり取りが始まった。井上さんは、
「聞き手になんでも聞いてください。なんでもお答えします」と口火を切った。井上
さんの実父が、作家、井上光晴氏であること、井上光晴氏が瀬戸内寂聴さんと愛人関
係にあった話もやり取りの中で出て来た。
両親がなくなったあと編集の方などと、ぞろぞろと寂聴さんの「庵」に伺ったこと
がある。その時父との話が出て、ぐっと来た。小説にしようと決めたと話した。ま
た、井上さんは、今回の掌編小説「百合中毒」を書いたあと、小説に仕上げて来年6
月に雑誌「昂(すばる)」に出す予定と話した。
「父は外に女の人がいた。母は怒ったり、泣いたりしていた。そんな家に、3食一緒
に暮らしていた。井上さんは小学校の1,2年のころ、お父さんが、外出したとき必
ず翌日帰宅する。どうして?、とあるとき聞いた。「バーで泊まる」と父は答えた。
大きくなってバーなる場所を知り、初めて、父のことがわかった。父にはずっといや
だなと言う気持ちをもっていた。私はそんな家庭で育った」と井上さんは話した。
十数人の参加者が質問し、井上さんはユーモアたっぷり質問に応じた。いろいろなや
り取りの中から一つ、二つ拾ってみる。井上さんは「ストーリーを書きたい」と言う
より「人間が書きたい。その人がどういう人か書きたい。」と話した。「符に落ちな
い人物も、書いていると、だんだん、この人は、こういう人なんだな、とわかる。人
間扱うの、好きなんです。」と話した。
「小説の中には道徳とか倫理観とか、持ち込まない」と井上さんはさんは話した。
「一人一人の中に、一人一人詰まっている。夫婦でもお互い理解できない。これが正
しい、これが正しくないとか、言えないと思う」と井上さんは話した。
聞き手の中井さんが最後に「井上さんは、珍しいタイプの作家だと思います。ご自身
どう思われますか?と聞いた。「小説を読んで自分も共感する。読むことで安心す
る。私が目指して来た小説は、読んでいて不安になる小説を書きたい。常に疑ってか
かる。疑ってかかる育ちだったからだと思う。性質、癖は育ちの中で植え付けられ
た」と井上さんは答えた。強く印象に残った。(了)