ベートーヴェンには、少年のような(時には少女のような)純情がそのまま音になっている作品があります。
純粋な「私」の発露は、どの曲でもありますが、ときにそれが、生(き)のままに表出されます。ピアノ曲の小品=「6つのエコセーズ」などは、誰が聴いてもその愛らしさんにドキドキするでしょう。まるで幼いころの初恋のような。
「合唱幻想曲」は、そうした作品の代表だと思います。18分ほどの(クレンペラーは例外で20分を超える)作品の最後の3、4分間で合唱が入りますが、その感動は、少年や少女の真っ直ぐで純情な世界のもので、それゆにストレートな悦びがやってきます。
わたしは、聴く度に、全身に鳥肌が立ち痺れるような感動におそわれます。
CDはいろいろありますが、対極的な二つの演奏が共に最高だと思います。
クレンペラーの深く沈み込み、大きな広がりをもつ演奏は、超絶的な名演ですし、また、ガーディナーの時代楽器による演奏は、高い熱をもち、生理的にも快感が得られます。
その他の演奏も、それぞれに聞きごたえがありますが、この二つは別格です。
なお、どのCDでも20分近い曲が一つのインデックスなのは不便ですが、わたしの知る限り、一つだけ、アバド(ウィーンフィル・ピアノはポリーニ)のは、細かくインデックスが入り、とても便利です。演奏は、ウィーンムジークフェラインザールでのライブで、たいへん美しく熱演ですが、外面的(視覚的)なので、前二者ほどの感動とはいきません。残念。ただし、「田園」も含め録音も見事で、ウィーンフィルの得難い美しさを堪能できます。