後楽園球場で、最も実質ある内容をそなえていたのは、チョコレートスマックであったようだ。
どうせロクなシロモノじゃなかろうと僕は目もくれたことがなかったのだが、文藝春秋の連中と見物したら、先ず田川君が買ってきてくれて、たべてみると、うまい。池島信平は、もっぱらスマックを食い、合いの手に野球を見ていたようであるが、実際これが、後楽園球場のカケネなしの実質ある商品ではなかろうかと僕は思った。然し、ともかく、精神病院の生活よりはマシであったことは確かであるから、二週間の野球見物を仇オロソカに思っているわけではないのである。
申し忘れたが、ランナーが走るたびに、シャッポが脱げて後へとぶのは見ていて苦しいものである。イキなアゴヒモでもつけたら、キリリと、一段と男振りもあがるであろう。
――坂口安吾「神経衰弱的野球美学論」