
それでは昔からの日本の婦人で誰が一番好きだ、と言われますと、これは風俗からではなくて心の現われからという風に思われますが、私は朝顔日記の深雪と淀君が好きです。内気で淑かな娘らしい深雪と、勝気で男優りの淀君とは、女としてまるきり正反対の性質ですけれど、私にはこの二人の女性に依って現わされた型が好きなのです。まだ盲目にならない深雪が、露のひぬま……と書かれた扇を手文庫から出して人知れず愛着の思いを舒べているところに跫音がして、我にもあらず、その扇を小脇に匿した、という刹那のところを一度描いたことがあります。
――上村松園「朝顔日記の深雪と淀君」