
空からの白さで明るく透けてゐるやうに思へた。花の咲く時分になつてから、陽気が又後戻りして来て、咲きさうにしてゐた花を暫し躊躇させてゐたが、一両日の生温い暖かさで、それが一時に咲きそろつた。そしてその下の方に茂つてゐる大株の山吹が、二分どほり透明な黄色い莟を綻ばせて、何となし晩春らしい気分をさへ醸してゐた。何かしら例年の陽気に見られない、寒さと暑さの混り合つたやうな重苦しい感じがそこに淀んでゐるやうな日であつた。それは全くいつもの春には見られないやうな、妙に拍子ぬけのした気分であつた。
――徳田秋声「花が咲く」