★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

政治と音楽

2016-06-23 22:50:35 | 音楽


なんか、ロックフェスティバルに政治を持ち込むな、いやもともとロックは反権力だ、……なんちゃらと、旧態依然とした論争が今さらながらあるそうである。だいたい、ロッケンロールなんぞ不良のやるものと言われていたくせに、まあそろそろなかよし国民音楽と化したから、いわば、昔風に言うならば、社会主義リアリズムがヘンなやつらを摘発しているようなものだ。ファシストやスターリニストが音楽好きなのは昔からよく知られた事実である。

まあ、ロッケンロールの政治青年の時代は過ぎたというわけであろうか。そんなことはないと、当事者たちは言うであろうが、クラシック命の中学生のわたくしを「社会主義者」呼ばわりした、パンクロック好きの青二才みたいな奴が、ちゃんとパンクでありつづけないからこういうことになるのだ。

この前、NHKの合唱コンクール全国大会をテレビで見たが、なんだか北朝鮮みたいな雰囲気になっててびっくりした。JPOPの歌手が曲を書き出してからおかしくなったと誰かが言っていたが、本当かどうかは分からん。音楽コンクールというものは、舞台裏で順番を待っている連中が、舞台に立っている連中に「音まちがえロー音外せー」と呪いをかけたりする殺伐とした雰囲気がよいのである。

芸術というものは、理不尽な世界だ。事実としては全くそうでもないが、一番よいものだけに価値があり、他は相対的にゴミクズなのである――当事者たちはだいたいそう思って頑張っている。たしかに、一つの名演奏は、100万の素人のゴミクズ演奏の試行錯誤のおかげではあるのだが、それらにたいして相対評価をするつもりはない。アーチストというのはそういうものである。そして、観客もアーチスト以上にそうなるのだ。音楽に政治を持ち込むな、という怒りは、ブーレーズ聴いてるときに、隣の観客の携帯から「ルビーの指輪」が聞こえてきたときの怒りに似ている。(違うか……)政治家なんてのは、そうはいかない。ゴミクズをつくってはいけないのだ。そういう意味で政治と芸術が対立するのは当たり前だ。芸術が政治的な良心を仮装した時におかしなことになるし、政治家が芸術家のまねをしたらジェノサイドが始まる。

やはり第9とかマタイ受難曲やショスタコーヴィチがいけなかったのであろうか。

いや違う。第9やマタイ受難曲に、内田樹の論文を歌わせても辛うじて芸術になる可能性がある。政治的な活動家たちよ、芸術家に金を出せ。しかし、その結果総選挙などを行う政治的音楽集団が簇生するのは反対である。我々の世界が、音楽にも政治にも慣れすぎて、それらが混ざった「日常」なるものの保守にあせくせしているのは、政治的でも音楽的でもないからだ。

あの記述はどこ――マックス・ウェーバー

2016-06-21 23:23:06 | 思想


『職業としての政治』、『職業としての学問』は、確か、学部の授業で全部読んだはずで、――いや、サークルで読んだんだっけな?――だいたい内容を記憶しているつもりであったが、ある箇所がどうしても見つからない。もしかしたら、その箇所は学部時代に大半を読まされた『リヴァイアサン』の記述だったかもしれぬ。最近の記憶もあやしいが、若い時の記憶もあやしい。

ハチク

2016-06-21 21:38:55 | 文学


僕の大きくなった士族町からは昔の城跡が近かった。不明門という処があった。昔、其処に閉じたままの城門があったので、それで名に呼ばれて居るのであるが、其頃は門などはもうなく、石垣の間からトカゲがその体を日に光らせて居た。濠の土手に淡竹の藪があって、筍が沢山出た。僕等は袋を母親に拵えて貰って、よく出懸けて行っては、それを取って来たものだ。其頃は屹度空が深い碧で、沼には蘆の新芽が風に吹かれて、対岸の丘には躑躅が赤く咲いて居た。

――田山花袋「新茶のかおり」

黒い秘密兵器と日々の感想

2016-06-19 03:50:15 | 漫画など


……まったく感想が浮かんでこないのであるが、「ゼロ・グラビティ」をこの前観たからその比較で言えば、日本はまだ未開状態だといへよう。しかし、内容が荒唐無稽だからそうだという意味は、これからは違う意味になる。すなわち、描写の技術があがるといろいろとできなくなることが多くなるのはあり得るという意味になる。「ゼロ・グラビティ」の技術レベルで、「黒い秘密兵器」は恥ずかしくて無理だからだ。重力の存在を表現できてしまうレベルでは、「無理なことは無理」という意識が働く――そういう意味では、「アルマゲドン」や「ハリポッター」などもこれからは無理なのではなかろうか。

……と思うのは素人で、なんとか表現を押し広げてしまうのがアーティストであろう……と期待したい。

・舛添問題……やっぱり、日本の初等中等教育にマックス・ウ××バー講読が必要ではなかろうか。だめだわ、「ごんぎつね」や「永訣の朝」ばっかりやってちゃ。人生、不幸でも幸福でも一対一的な風景ばっかりなわけなかろうが……。興味深いのは、新美南吉や宮沢賢治がどのような集団の中でどう振る舞ったかであり、舛添氏の周りにいた多くの官僚たちの具体的な姿なのである。とはいえ、報道の狂乱ぶりはひでえね……この国は幼稚園かよ。

・選挙管理委員会とかが高校とか大学行って選挙のこと説明してるみたいなんだが、ありゃなんなのだ?政治的偏向とはこういうことを言うのだ。高校の先生がやりゃいいじゃんか。投票のまねごとなんかして馬鹿じゃないのか

・パワーポイント嫌いだわー。レジュメがいいよ。わたくしはまだまだレジュメで授業をやり続けるね……

・オリンピックまだやるつもりなのかよ

・高校生が学業優先して政治活動を遠慮すべきであれば、生涯学習の時代になったので、永久に政治活動はできませんなあ……大学の勉強量は高校の比ではないから、大学生も政治活動ができない。あ、学者はもっとできない。

・まあ、高校生に政治やらすと「あの子右翼よ、職業的なんだわ」とか言われただけで、デモ隊に攻撃を加えて性的快感を得るような人たちがでてくるのを心配しているのであろう。大丈夫です。そんなリアルな情景は、大江健三郎がいないと実現しません。

・今時の18歳の一部はとっとと大人になったらどうなのだ。

・無理か……

・ヨーロッパのネオナチ……根深いねえ

・イチローがアメリカ人になったら、日本人のアイデンティティの78パーセントぐらいは崩壊するな。まあ崩壊してもかまわん。

・オリンピック委員会がロシアの陸上を受け入れないとか言ってるらしいが、ロシアをあまりいじめるとあとがなあ……。

亀井秀雄氏死去

2016-06-18 20:14:21 | 文学


亀井秀雄氏が死去されたそうである。大学時代、北大の紀要に連載されていた「小説神髄研究」をコピーして私なりに一生懸命読んだ(上は、それを製本したもの)。卒業論文で似たようなスタイルでやろうと思ったのは苦い思い出である。『小林秀雄論』にも影響を受けたかも知れない。

国語科2ちゃ×ねる

2016-06-15 22:25:53 | 大学


「国語科内容学演習Ⅰ」はもはやわたくしの実験場と化してきたわけであるが、今日は、2ちゃんねるのあるスレッドを〈面白く終わらせる〉投稿を学生諸君に考えてもらった。どこかで学生の思考に粘り強さがでてくるといいのだが……。でも、結局、訓詁注釈、解釈の反復練習とレジメ発表が一番効果的なんだよなあ、たぶん。

朝顔成長日記9

2016-06-13 22:23:14 | 文学


空からの白さで明るく透けてゐるやうに思へた。花の咲く時分になつてから、陽気が又後戻りして来て、咲きさうにしてゐた花を暫し躊躇させてゐたが、一両日の生温い暖かさで、それが一時に咲きそろつた。そしてその下の方に茂つてゐる大株の山吹が、二分どほり透明な黄色い莟を綻ばせて、何となし晩春らしい気分をさへ醸してゐた。何かしら例年の陽気に見られない、寒さと暑さの混り合つたやうな重苦しい感じがそこに淀んでゐるやうな日であつた。それは全くいつもの春には見られないやうな、妙に拍子ぬけのした気分であつた。

――徳田秋声「花が咲く」