人生の裏側

人生は思われた通りでは無い。
人生の裏側の扉が開かれた時、貴方の知らない自分、世界が見えてくる・・・

我と汝・対話

2016-01-10 19:38:33 | 人生の裏側の図書室
ここで取り上げようとする書物は、絶版という憂き目にあっているものなど、入手困難なものが多く、そればかりになると一寸気が引けるところもあります。こんなところにもある意味私色?というものが伺えるのですが、今回触れようとしているユダヤ系宗教哲学者マルティン・ブーバーの主著「我と汝・対話
」(二著のセット)は、名著として誉高いものです。
私が知る限り岩波文庫を初め、みすず書房、創文社(こちらは「孤独と愛」という邦題で、「我と汝」のみの訳)の三種が有ります。
私が初めて読んだのは昭和55年の今頃で、ブーバーのことはそれ以前手島郁郎先生が講話の中で取り上げられていて知っていました。
このような哲学の本に触れるのは、私にとってベルジャーエフについで二度目だったのですが、「孤独と愛」の解説で、両者の思想の類似について書かれているのを読んで求めた記憶が有ります。私にはブーバーの方がずっと難しかったですが…。
その理由の一つは、この本でもっとも重要と思われる言葉がブーバー独特の用語で語られる為だと思います。
いきなり、”根源語”というのが出てきて当惑してしまったのですが、それは我々の存在そのものによって”語られるもの、とのことですが、それは意識の有り様に応じたものと言えるでしょう。ブーバーに依れば次の二つの根源語によって、我々の有り様も二重のものとなるとされます。

「根源語・我―それにおける我は個我として発現し、自己を(経験と利用との)主体として意識する。
根原語・我―汝における我は人格として発現し、自己を(従属的な属格を持たぬ)主体性として意識する。
個我は他のさまざまな個我から対比的に分離することによって発現する。
人格は他のさまざまな人格との関係の中へ歩み入ることによって発現する。」

ここから一応は概念的に前者は、分離した個我が有って、それ以外の事物が対象的に捉えられてしまう、という二元的な我々の意識状態のことを述べているのだろう…という事は理解されるでしょう。
問題なのは後者の方です。これは禅仏教など東洋的視点に馴染んでいる者からしたら、”自他一体感”といったもので片付けられてしまいそうです。
ある意味一体的と言えるかもしれませんが、ここで述べられているのは自他が一つに溶け合うような事態ではありません。
さりとて、私は以前ブーバーの教説には”自他の二元性が克服されていない…”という批判に接した事が有るのですが、そのような見当違いが生まれるような事態とも違うでしょう。そこに結び付ける何かが生きて働くことで、自己と他者とに相依、相交わるという関係が生まれる事を言っているのです。
こういう事はしかし、いくら知的概念で理解したとしても、現実に生きたものとはなり得ません。
そうです! ブーバーは読者にいつも瞑想に没頭してるようなものでない、現実的な日常と乖離しない精神の道を提起しているのです。
その参入の契機はとても具体的なものと言わざるを得ません。
私自身には、以前このブログで「心を読む」という雑感風の文章で書いたことが想起されます。それはそれまで何ともぎこちない関係にあった知人から、突然魂からの叫びにも似た訴えがもたらされ、私の魂が揺さぶられたことにより開示されたものなのでした。
その時の彼はそれまで知っていた彼では全くなかったのです。そして私は初めて彼と本当に向き合うことが出来たのです! そこには私と彼の他に別のものが生きていた感じがしました。いやそこでの本当の主体は私でも彼でも無く、そこに立ち上っていた見えない何かだったかもしれません…
だが、次の機会で彼と会った時、その関係はあっけなく失われてしまいましたが…
ブーバーが語っていることもそうですが、こういう話というのは、所謂ワンネスや覚醒といった神秘体験と結びつくこととは違います。
それを望んで意図しようとしても訪れるものでない、という点では同じですが、単独で起きるような事では無いのです。(単独であっても”言葉を超えたもの”との関係というものは有り得ます。)
そこに”関係に歩み入る”という現実的で具体的な道が示されているのです。
こうしたことは、あまり神秘めいた話を持ち出さずとも誰でも人間関係において、又自然や動物との関係などにおいて、そうとは知らずに経験していることなのではないでしょうか?
こちらの思いはかりを超えて、いつの間にか不思議なゾーンに入り込んでしまう事…それらの生きた関係を通して、息づいているものが、ブーバーに依れば永遠の汝―神とされるのです。ここに一元でも二元でも無い、もう一つの道が開かれてくるのです。
それは又常に私を夢想的なものでない、生きた現実に連れ戻してくれるのです。





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