十辺舎一句の描く「東海道中膝栗毛」の弥二さん喜多さんは、決して品よ
く行儀の良い道中を続けているわけではなく、酒や性、滑稽を楽しむ浮薄な
浮世人そのものの旅を楽しんでいる。
今流にいえば世間のマナーなんてものは、糞っ喰らえとばかりに荒唐無稽な
事件を行った先々で繰り返している。



この地では、西坂で道連れとなった男と三人連れで、道中子供から買い取
ったスッポンを手にとある宿に草鞋を脱いでいる。女子衆に料理させ、一杯
やろうと言う算段では有ったが、ここはなにしおう三島女郎衆の地、おとな
しくできるはずもなく、大枚を叩いてお決まりの夢を結ぶ。
ところが宴が終わり寝静まったころ、食いそびれたスッポンが這い出して、
あろうことか弥次の指に食いついてしまい宿は大騒ぎ、このすきに連れの男・
十吉は弥次の有り金全部奪って姿を消してしまう。
何のことは無い、道中で意気投合し連れになった男は旅人の懐中を狙う胡麻の
灰だったのだ。路銀を無くした二人はこの先しばらく、文無しの貧乏旅を強い
られることになる。



ところでマナーと言えば、この地の交通マナーは素晴らしいと思う。
道中の史跡を見逃さないようにするためには、どうしてもあっちこっちと道
路を何度も行ったり来たり横断する。
こんな時歩道で待っていると、すかさず当たり前のように道を譲ってくれる。
いけないこととは知りつつ、つい近道をしてしまう時すら、車の途切れを待
つまでもない。
たまたまかとも思ったが、箱根に入って以来行く先々で体験したのだから、
これには当地の当たり前のマナーであろう。
我が地元ではまずあり得ないことで、これには本当に感心した。(続)


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