旧東海道の街道筋からは外れるが、市内の白滝公園の近くには、川の流れ
に沿って「三島水辺の文学碑」と言う通りがある。三嶋大社とJR三島駅を
結ぶ位置に有り、桜川(三カ所用水)に沿って、当地に関わりのあった作家
や文学者など著名人12名の文学碑が建ち並んでいる。ここは正式には水上
通りと言うらしいが、「静岡まちなみ50選」に選定されている。


北海道で生まれ、中学生時代には両親の元を離れ祖母と共に伊豆の湯ヶ島や、
浜松、沼津など主に静岡県内で生活した作家の井上靖は、その体験を「しろば
んば」「あすなろ物語」「夏草冬涛」などの自叙伝的な作品を残しているが、
ここには昭和29年に発表された「少年」の一説が刻まれている。
山と川しか知らない山村育ちの少年達が初めて目にする三島の町への驚きと、
その賑わいにおっかなさで少し腰が引けた様子が何とも微笑ましい。


十返舎一九の東海道中膝栗毛からは、弥次さん喜多さんが三島の宿で宿探し
をする場面が刻まれている。投宿そうそう湯屋に飛び込んで、その後のスッポ
ン騒動に繋がる序章である。
他には太宰治や司馬遼太郎などは、三島の湧水について寄せた一文が紹介され
ていて、この地が伏流水による湧水が豊富な町であることが窺い知れる。


白滝公園から流れ出る川面では、カルガモの姿を目にすることもあるらしいが、
生憎この日は一羽もいない。煉瓦鋪装された歩道には柳並木が続き、その根元に
は地元のボランティア活動によると言う草花が彩りを添えていて、少しだけ文学
に触れた心が、和まされる通りとなっている。(続)


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