田代橋を渡ると河童橋に近づいているらしく、大型の観光ホテルを幾つか目
にすることが出来る。ここら辺りからは梓川の流れも間近になってきて、樹林
が途切れると川越しに岩肌がゴツゴツとした武骨な姿で聳える左岸の霞沢岳と
六百山が良く見える。
清流と言う名に恥じない澄み切った梓川の流れは、川底の小石までを鮮明に
見せてくれる。河原に降り、手を浸してみても左程冷たくないのは、まだ雪解
け水ではないからであろうか。緩やかに蛇行する浅い流れに癒される。
しばらく行くとウエストン碑が有った。
登山の楽しさを日本に浸透させ、日本アルプスを広く世界に知らしめた人物ら
しいが、その碑はうっかりしていると見過ごしてしまいそうに目立たない。
ここから1キロ程で上高地観光の中心河童橋だ。
バスターミナルから歩いて5分ほどと言うから近づくほどに観光客が多くなる。
とはいえ閉山式を数日後に控えたこの日の人出は、大したものでもないようだ。
五月の連休や、夏山のシーズン、秋の紅葉の時期などは、上高地銀座と呼ばれる
ほどの観光客で賑わうと言う。
明治の後半に吊り橋にかけ替えられたそうだが、なぜ河童橋と言うのかは
定かではなくいまだに謎だと言う。この橋の上から眺める梓川の流れ、水面
に移る岸辺の緑、前に聳える穂高連峰、後方に構える焼岳など、どれを取つ
てもその光景は見るものを魅了する。
この地の知名度の高さや、観光地としての人気は、橋の名の神秘性だけでは
なく、この超一級の景観が多くの人々の心を鷲掴みにしているからであろう。(続)
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