株価の天井は広島サミットか、市場に出現している3つの異変は無視できない
(市岡 繁男:相場研究家)
■ 世界に比べ日本株には上昇余地がありそうだが
米著名投資家のウォーレン・バフェット氏が来日しました。日本メディアのインタビューに対し日本株への投資意欲を語ったと伝えられたこともあり、日本株の相場は4月18日まで8日連続で上昇しました。
不吉のサイン「逆イールド」の大きさは過去100年で4番目の大きさに
とはいえ、世界を見渡すと日本株はむしろ出遅れ気味です。
世界の株価をみると、昨年9月末以降、最も上昇したのはイタリア、ドイツ、フランスで30%超も上がりました。韓国、台湾が約20%、米国、英国は約15%上昇しているのに対し、日本は10%前後に過ぎません(図1)。これをみると、外国株と比較した場合、日本株はまだ上値余地があるように思えます。
こうした世界的株高は今後も続くのでしょうか?
筆者の結論から言いましょう。
5月19~21日に日本で開催となるG7の広島サミット(G7サミット)あたりまでは株高が続くかもしれませんが、今夏には大きな調整局面を迎えるとみています。
その理由は主に3点あり、順に説明していきます。
■ 実は日銀が世界株高の原動力
1点目は、世界的株高の原動力となってきた日銀の量的緩和路線が限界に近づいていることです。
日銀は昨年9月からの6カ月間で国債を92兆円も購入し、結果的に量的緩和を再開する格好となりました。日銀は民間銀行等から国債を購入しますが、銀行はその売却代金をいったん日銀の当座預金にプールします。それが対外証券投資等の原資となります。図2が示すとおり、日銀の当座預金残高と日本の対外証券投資が連動しているのはその表れです。
このメカニズムによる対外証券投資の増加が、昨年秋以降、米長期金利の低下につながり、世界的な株高の原動力となったのです。
だからでしょう。海外紙をみると、4月に就任した植田和男・日銀総裁がイールドカーブコントロール(YCC)の運用を弾力化、ないしは撤廃した場合、日本から海外に流れていた資金の一部が本国に逆流し、欧米の金利が急騰すると牽制する論調の記事が目につきます。
筆者は、海外の金利上昇が一服し、株価も高いいまこそ、日銀はYCC政策の緩和ないしは撤廃に踏み切り、長期間にわたる異次元緩和で副作用が目立つようになった金融政策を正常化すべきだと考えています。
しかし植田総裁は就任時の会見で、「当面はYCCを維持する」と述べました。これは日銀が今後もできるだけ多くの国債を購入するということにほかなりません。
他国の中央銀行が何度も利上げを行っているのに、日本だけ金利を上げなければ、どうなるでしょうか。
■ サミット終了後に事実上の利上げも
まず、高金利を求めて資金が海外に流出し、円安が止まらなくなります。そして円安になればなるほど原油など輸入品の価格は上昇し、インフレ率は高騰してしまうでしょう。
もちろん植田総裁はそんなことは百も承知のはずです。ですから、5月のサミット終了を待って、事実上の「利上げ」に踏み切るのではないでしょうか。筆者が「サミットあたりまでは株高、今夏は大きな調整もある」とみるのはこのためです。
2点目は、米国のマネーストックや、逆イールド、つまり「3カ月短期国債と10年国債の利回り差の逆転」に関して、過去100年間で数回しかない異常値が計測されていることです。このことは来るべき不況の深刻さを筆者に予感させるのです。
まず米国のマネーストック「M2(現預金)」をみてみます。
昨年12月から前の年を割り込み始めていますが、前年比マイナスとなるのは過去100年間で5回しかない「変事」なのです(図3)。
最初に起きたのは1921年。失業率が20%超となる不況下で発生しました。続く1929年は有名な大恐慌です。1937年はそれがさらに悪化した第2次恐慌があり、その2年後に世界大戦が勃発しています。1948~49年もすぐあとの1950年に朝鮮戦争が始まりました。
■ 過去の大きな逆イールド時には大混乱
つまり、歴史的にみて、M2がマイナスになる状況は不吉なサインなのです。
もう一つ、逆イールド化は景気後退の前兆とされ、実際、半年~1年半のタイムラグを置いて不況に突入しています。直近で、3カ月短期国債と10年国債の逆イールド化が始まったのは昨年11月からですから、今年5月ごろから景気後退の兆しが表面化する可能性があるというのが過去の経験則から言えそうです。
しかも、今回の逆イールド幅(金利差)は史上2番目の大きさです(図4)。これも筆者が気になっている点です。
過去、大きな逆イールドが発生したことは3回ありました。1929年、1973年、1980年です。いずれも同じようなタイミングで大恐慌、オイルショックといった大混乱が起きています。
特に今回は、逆イールドとなっているのが米国だけではなく、世界の27カ国・地域に及びます。「株安→景気後退」の火種は全世界に拡がっているようにみえるのです。
3点目は、3月に米シリコンバレー銀行が破綻した原因となった預金流出は収束しておらず、事態は悪化の度合いを強めていることです。
■ アップル預金が米銀からの預金流出に拍車
4月17日に米アップルは、ゴールドマン・サックスと提携し、年率4.15%の預金取り扱い開始を発表しました。米銀の平均預金金利は0.37%しかないのですから、銀行から、特に中小銀行からの預金流出が加速するのは確実でしょう。
預金が流出すると、銀行のバランスシートは「預金=負債サイド」が縮小します。それにあわせて、「貸出=資産サイド」も小さくせざるを得なくなります。
それに伴って懸念されるのは、商業用不動産向け貸出がどうなるのか、です。
今後2年間で3兆ドルもの借り換えが迫っており、ここが次の危機の発火点となる可能性があるのです。すでに中小の銀行では預金の流出にあわせて、商業用不動産向けの貸出残高を縮小し始めており、危機の予兆が垣間見られます(図5)。
モルガン・スタンレーは、米国の商業用不動産の価格はピークから4割も下落し、2008年の落ち込みを上回ると予測しているそうです。もしその予測が正しければ、1990年代の日本経済を震撼させた不動産バブル崩壊と同じことが、米国で起きることになります。
いま挙げた3点以外にも懸念材料は山積しています。
■ 限界を超えたラクダはたった1本の藁でつぶれる
なかでも「ワイルドカード」になりそうなのがイランとイスラエルの軍事衝突リスクです。イランの核施設から84%の高濃縮ウランが見つかったとIAEA(国際原子力機関)が報告書をまとめたことが明らかになっています。
イランの核開発が進むのをイスラエルが放置するとは思えず、軍事衝突が起きる可能性が高まっています。イランの友好国であるロシアがウクライナとの戦争で手一杯である以上、これはいつ起きてもおかしくないと筆者はみています。そうなれば原油価格は一気に高騰するでしょう。1バレル=130ドル以上になるような事態も考えられます。
それでも、FRB(米連邦準備制度理事会)は5月3日の次回会合で、政策金利を0.25%引き上げると予想されています。
「金融危機や景気悪化があるかもしれないのになぜ?」と思われるかもしれません。この裏には、米中関係の悪化で中国が米国債を売却していること、ウクライナ支援で多額の経費がかかることなどから、ドル高を維持し、海外の資金を米国に引き寄せなければならないという事情があるのだと思います。
筆者はこの利上げは世界経済や株価に対する「最後の藁(ラストストロー)」になる可能性があるとみています。ラストストロー現象とは、たくさんの荷物を運べるラクダでも、限界の重さを超えると背中に藁(straw=ストロー)をたった1本載せただけでもつぶれてしまうことを言うことわざのようなものです。
次のFRBの利上げがラストストローになり、利上げ効果が表れるまでに数カ月のタイムラグがあるのだとしたら、7~9月のどこかで株価の大調整が起きる事態を考えておく必要があると考えています。
※本稿は筆者個人の見解です。実際の投資に関しては、ご自身の判断と責任において行われますようお願い申し上げます。
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