ローカル鉄道をバスへ転換…そう簡単ではない事情
利用者減に苦しむ地方の公共交通を持続可能なものにするための「改正地域公共交通活性化再生法」が1日に施行され、鉄道事業者や自治体の要請を受けて国が設置し、ローカル線の存廃を議論する「再構築協議会」制度の運用が始まった。存廃を巡る議論が各地で加速する可能性があり、住民の「生活の足」を担ってきた日本の鉄道が転機を迎えている。バスへの転換も選択肢の一つだが、運転手の残業規制が強化される「2024年問題」を控えバス業界も人手不足が深刻化しており、解決すべき課題は少なくない。
「鉄道で空気を運ぶのか。同じ費用でやるならバスへ移行した方が高頻度の運転で利便性が高まるのでは」。あるJR幹部の率直な感想だ。
昭和62年の旧国鉄分割民営化の際は、輸送密度(1キロ当たりの1日の平均乗客数)は4千人未満の83路線のうち、38路線が第三セクターなどの鉄道に、45路線がバスに転換された。再構築協議会では輸送密度1千人未満の区間を優先して議論し、バス転換にするかなどを決めるが、現実は分割民営化当時よりも厳しい。
千葉県の房総半島を走る久留里線の久留里-上総亀山間の輸送密度は新型コロナウイルス禍前の令和元年度の時点でJR発足時から90%減の85人。4年度には54人にまで落ち込んだ。100円の収入を得るために必要な費用は1万7074円(2年度)にも上った。
JR各社は、大都市圏や新幹線の利益を「内部補助」として不採算路線に回すことで維持してきた。だがコロナ禍で経営の余力を失い「過度に内部補助に頼るのは問題がある」(JR関係者)との見方も強まっている。
JR西日本は広島、岡山両県にまたがる芸備線の一部区間について、協議会の設置を国に要請する意向をすでに示している。関西大の安部誠治名誉教授(交通政策論)は「鉄道事業者だけで輸送密度が低い路線を維持することは困難」と指摘。「鉄道を残すのなら、税金投入もやむを得ない」との見方を示す。
自治体などが出資する第三セクター方式の別会社を設立し鉄路を存続させたり、鉄道の廃線跡を活用した専用道を活用し、バス高速輸送システム(BRT)に転換したりする方法もある。平成23年の豪雨災害で一部が不通となったJR只見線は、福島県が鉄道施設を保有しJR東が運行を担う「上下分離方式」に移行することで復活した。
一方、車が生活の足となっている地方では、バス会社も厳しい経営環境にある。人口減少が続く過疎地では、鉄道から転換されたバス路線が廃止されるケースも相次ぐ。
「このままではヤバいです」。京浜急行バス(横浜市)は衝撃的な文言が目を引く職員募集のポスターを作成した。同社人事労務課の玉井純課長補佐は「本当に人が足らない」と訴える。旭川電気軌道(北海道旭川市)はバスの利用状況を見ながら半年ごとにダイヤ改正を実施し、減便など効率化を図ってきた。
解決の糸口はあるのか。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏は鉄道やバスで完全自動の無人運転の実現を挙げる。「鉄道は無人運転を実現しやすく、その技術の応用でBRTでも無人運転は可能だ」とみる。実際、JR東は気仙沼線(宮城県)のBRTの一部区間で、一定の条件下で無人運転が可能な「レベル4」の実用化を目指している。
岐路に立つローカル線の地元は鉄路の存続を望んでいる。安部氏は「高齢者などマイカーに依存できない人もいる。鉄道事業者が自治体と連携し、地域の実情に即した枠組みを構築していかなければならない」と強調する。人口減少社会を迎えた今、地域の将来像を見据えた議論が必要だ。