図書館から借りていた 大活字本 津本陽著 「胡蝶の剣」を 読み終えた。
津本陽著 「胡蝶の剣」は 若き薩摩隼人が 剣一筋に幕末の激動期を駆け抜けていく姿が描かれている長編時代小説である。
主人公は 御供目付三原十郎の嫡男、三原林太郎。
江戸芝三田の薩摩藩邸で生まれ 島津第28代藩主に就いた島津斉彬に従って国許に赴任、鹿児島城下で 1年余りを過すことになったが 14才で 徹底した薩摩武士教育組織 二才組(にせぐみ)郷中稚児組に加わり 訓練に明け暮れる。
ぼっけもんと言われる 命を捨てることに躊躇しない薩摩隼人の狂勇ぶりに 江戸育ちの林太郎は戸惑いながらも 凄まじい武芸鍛錬の中で 次第に頭角を現すことになる。
物語は 嘉永4年(1851年)、鹿児島鶴丸城二の丸練兵場での西洋銃隊の訓練が行われている場面から始まっている。
斉彬は 藩主に就くと 二の丸の花園を縮小、文武の講習所を設け 若手藩士の鍛錬、教育に力を入れたが 特に武芸鍛錬は 凄まじいものだった。
林太郎は 6才から江戸神田お玉ケ池の千葉道場に通い すでに北辰一刀流の目録免許を受けていたが、薩摩の道場での 示現流剣法の立木打ち、薬丸自顕流剣法の横木打ちの稽古等は 大人でもへきへきするものだった。
時代は 幕末動乱期、嘉永6年(1853年)には ペリー艦隊が浦賀に来航、日本は上から下まで 慌てふためいていた時代、
西欧の情勢に通じていた開明的な斉彬は 藩制の改革、軍備の増強を目指し 製錬工場、大砲を鋳造するための反射炉、造船所等の建設等を急ぎ 西洋銃隊の調練に力を入れたが 一方で 弟久光の実母、お遊羅が わが子を藩主にしようと画策、斉彬を陥れようとする反対派、お遊羅一派が有って 内紛の危機、斉彬の身に次々と緊迫が迫る。
林太郎等が 斉彬の身辺の警固にあたり 卓越した剣技で 繰り出される刺客等に立ち向かうが、安政元年(1854年)1月 斉彬が江戸に向かう途中 山陽道で 反対派が雇った大勢の浪人達と戦う場面で 物語は終わっている。
「・・・・俺の武運は まだ 尽きてはおらぬ・・・、彼は 安堵の思いのうちに 意識を失っていった」、
剣技を尽くし 命を捨てても 役目を果たした、幕末動乱期の一人の青年の物語だ。
舞台は 江戸薩摩藩邸、東海道、京都、山陽道と 展開するが やはり 島津斉彬の薩摩藩が主。
当然ながら 物語の終始、薩摩言葉であふれており 一文、一文、作者の苦労が 感じられる。
前後の文脈から だいたい意味が分っても 中には 注釈してもらわないと チンプンカンプンの言い回し等もあり 薩摩言葉に興味関心有る向きにも 面白い作品だと思われる。
津本陽の作品には 剣豪物と呼ばれるジャンルの歴史小説が多いようだが 実際に読破したのは初めてのこと。
次の作品も 楽しみになってくる。