図書館から借りていた 海老沢泰久著、「無用庵隠居修行」(上)(下)(大活字本)を、読み終えた。

(目次)
「無用庵隠居修行」
「女の櫛」
「尾ける子」
「聖天の藤兵衛」
「千両鶯」
「会津からの客」
「松屋の銀煙管」
「辻斬り」
(解説)
徳川家の直参旗本で、「旗本の中の旗本」と言われる 将軍を親衛する大番士(おおばんし)を勤めていた、日向半兵衛(ひなたはんべい)は 田沼意次が失脚し 老中筆頭となった松平定信が幕政の引き締めに取り掛かっていた頃、54歳半ばで 隠居しようとする。
日向家の譜代の家臣 用人の勝谷彦之助にとっては もし半兵衛に隠居されたら 日向家には後継ぎがいないため絶家となり 路頭に迷うことになってしまうこともあり 必死で画策をする。
彦之助は 先ず 小普請組 松田清右衛門の息女 奈津を 妻に先立たれている 半兵衛に引き合わせる。奈津は 出戻りの美人だが 大変なお転婆で 半兵衛は 押され気味、たじたじとなるが 物語の随所で 探偵役を務めたり 事件解決に一役買ったりし 二人の関係の成り行きに 気を持たせながら、進行する。
「どうだい、おまえさんも 一緒に食って行くかい」 半兵衛は 奈津にいった。
物語の最後の最後の1文に その後の二人の関係が暗示されている。
浪人に襲われていた若侍相馬新太郎を危機から救ったことが縁で 彼を養子に迎えることが出来た半兵衛、家督を新太郎に譲ったため 絶家にはならず 用人の彦之助も安泰、半兵衛の隠居が決まった。隅田川左岸 須崎村に隠居所を設け 表札を「無用庵」とした。
半兵衛の「年寄りらしい年寄りになるための」の隠居修行が始まるが いざ隠居したものの 毎日が退屈で仕方が無い。
「さて きょうは何をして過ごすか」、
反面 次々と事件に巻き込まれ 「無用庵」に出入りする 個性豊かな 「表」、「裏」の人物と関わりながら 事件を解決していく痛快時代小説である。
養子となった相馬新太郎の伯父にあたる蝋燭問屋「伊勢屋」の金右衛門、医師の村田道庵、御用聞きの文蔵、深川芸者上がりで半兵衛とは旧知の仲の室町の料亭の女将お咲、半兵衛の実弟で 水戸徳川家ゆかりの松平家の養子になり 重職目付となっていた松平半次郎、聖天の藤兵衛、百姓の子供 佐吉、等々、
一話、一話、小気味良い展開で 肩も凝らず、
大活字本ならではの ページを捲るスピード感に吊られて 一気に読んでしまった。
小説家、ノンフィクション作家 海老沢泰久氏の作品を読むのは もちろん初めてであり、どのような著書が有るのか どんな作風なのかも 不明のまま 「無用庵隠居修行」を 借りてしまったが なかなか読み応えが有った。
因みに 海老沢泰久氏は 「乱」で 小説新潮新人賞、「F1地上の夢」で 新田次郎文学賞、「帰郷」で 直木賞を 受賞。
また 氏は ヤクルト監督として優勝に導いた広岡達朗をモデルにした「監督」で 話題を呼んだが 2009年に 59歳で亡くなられている。