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葉室麟著 「陽炎の門」

2024年05月30日 07時06分43秒 | 読書記

図書館から借りていた、葉室麟著「陽炎の門(かげろうのもん)」(講談社)を、読み終えた。本書は、伊予来島水軍の勇将黒島興正を藩祖とする、九州豊後鶴ヶ江に六万石を領するという架空の小藩「黒島藩」を舞台にした長編時代小説「黒島藩シリーズ」の第1段の作品だった。さらに、第2段に「紫匂う」、第3段に、「山月庵茶会記」が有り、引き続き読んでみたいと思っているところだ。

▢目次
(一)~(二十九)

▢主な登場人物
桐谷主水(きりやもんど、37歳、氷柱の主水)・由布(ゆう、20歳)、
芳村綱四郎(よしむらつなしろう)・芳村喬之助、
浅井孤竹・藤、
尾石平兵衛(おいしへいべい、黒島藩筆頭家老)、渡辺清右衛門(黒島藩次席家老)、
樋口次郎左衛門(黒島藩勘定奉行)、大崎伝五(黒島藩町奉行)、笠井武兵衛(黒島藩郡奉行
渡辺一蔵(義仙、渡辺清右衛門の嫡男)、早瀬与十郎(渡辺清右衛門の四男、妾腹の子
榊松庵・吉太郎、
森脇監物(元家老)、熊谷太郎左衛門、
黒島興世(くろしまおきよ、黒島藩藩主、曙山
貫井鉄心、竹井辰蔵、

▢あらすじ等
家禄五十石の下士の家に生まれ、若くして両親を亡くし、天涯孤独の身で苦難を重ねながら精進し、37歳の若さで黒島藩の執政となった桐谷主水(きりやもんど)が、執政として初出仕するところから物語が始まっている。
城内で、「氷柱の主水(つららのもんど)」等と呼ばれ、妥協を許さない切れ者の主水だったが、下士からの異例の出世は、他の執政達には目障りであり、さらに、10年前の出来事で、重い過去を背負っている主水に対し、さらに、追い詰め、陥れようとする空気が、最初から漂っている。
主水には、10年前、藩主黒島興世を中傷する落書をしたとされた親友の芳村綱四郎を庇うこと出来ず、落書きの筆跡が芳村綱四郎のものだ断定してしまい、切腹に追いやり、しかも介錯をした過去が有ったのだった。
己は友を見捨て出世した卑怯者なのか?、
娶った妻は、その親友綱四郎の娘で、17歳年下の由布であり、揺れ乱れる心情、
さらに、綱四郎の息子芳村喬之助(由布の弟)が、親の仇討ちとして現れる。
裏で蠢き、罠を仕掛けているのは誰?、
10年前の忌まわしい事件、後世河原の騒動が鍵?、
不可解な落書の真相?、疑念、謎、
「百足(むかで)」の正体は?、 
窮地に陥る主水、黙って死ぬわけにはいかない・・・、

序盤から終盤まで、畳み掛けるような波乱の展開、
著者の峻烈な筆で、武士の矜持を描き出す渾身の長編時代小説である。

  一連の事件解決後、主水は、次席家老となった。黒島藩では異例の出世である。
  登城する主水は、潮見櫓の門を潜ると立ち止り、「出世桜」に目を向けた。
  一年前、執政として初登城した時を思い出しながら・・・。
  その時、主水はささやくような声を耳にした。
  「・・・・桐谷様」
  振り返ると、門の向こうの石段に若い武士が立っており、早瀬与十郎だとわかった。
  「与十郎、いかがした」
  思わず、主水は声をかけた。
  その若い武士ははにかんで少し笑ったように見えた。
  だが、武士の姿は立ち昇る陽炎にゆらいだ。

  主水がはっと気がつけば、そこには誰もおらず、桜の花びらが風に乗って散るばかりだった。
  主水は、眉尻の傷に触れそうになった手を止め、次席家老の威厳溢れる面持ちで、
  石段を踏みしめるように上がっていった。

で終っている。


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