小学館文庫 1988年
「~ゴリラ」には本人はヘタといっているが、素晴らしいエッチング
がある。線にオリジナリティがある。文章も超現実といってよく、ファ
ンタジーでもなく、かといってリアルではない世界が描かれる。
椅子は歩くし、しゃべるし、最後はゴミの山で壊れてしまう始末。
悲劇なのか、と問われれば、そのような気もするし。死んだ猫が、
ブツブツ言った、「力いっぱい生きたのよ」、「力いっぱい死んでい
るのか」、「ぼく、すごく短く生きたみたい、鳥みたいに、花みたいに。
すてきだったなあ。もう一回ぼく、真っ白いハンカチになっても、同じ
ことするの」という会話がある。これは佐野女史からのメッセージだ。
精いっぱい生きてみろ。そしたら、いっぱい死ぬことができる。たく
さんの生を同時に、何人分も生きるのだ、それが、作家といういきもの
らしい。……合掌。