村上春樹・訳 中公文庫
まず、本書のはじめに、フィッツジェラルド体験、と
題された評論がある。それは春樹氏の真骨頂ともいえ
る素晴らしいものだ。言葉の柔軟性といい、美しさ、
といっちゃあ幼稚かもしれぬが、芳しい香りが立ち上
ってくるような文章だ。「残り火」という短編も、
伴侶の頭の瘤が弾けて寝たきりになってしまう、とい
う悲惨な話だ。暗いし、しかし、ひりひりするような
鋭い痛みが夢中にさせた、本当だ。この本を買って、
20年以上たって思うが、その真価が分かるようにな
れたのは、フィッツジェラルドもとうに死んでしまった
年齢になってからだとは。僕はフィッツジェラルドの
ようには絶対に書けない、でも、と僕は思うのだ。
僕のように、フィッツジェラルドだって書けないはずだ、
と。
(読了日 2023年10・27(金)21:20)
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