映画と本の『たんぽぽ館』

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『しがみつかない生き方/「ふつうの幸せ」を手に入れる10のルール』 香山リカ 

2009年10月01日 | 本(解説)
しがみつかない生き方―「ふつうの幸せ」を手に入れる10のルール (幻冬舎新書)
香山 リカ
幻冬舎

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いまさら説明するまでもなく、香山リカさんは精神科医であり、著作も多数。
テレビなどでも時々お見かけします。
この方の感覚はとても好きです。
この本では、「ふつうの幸せ」を手に入れるための心がけを説いています。

診察室にいると、そのふつうの幸せを手に入れるのが
とても難しいと感じるそうなんですね。
そのわけというのが、1980年代後半から2002年頃までと、
それ以降とでは異なるといいます。

1990年代。
客観的には十分幸せと思える人が、
「本当ならもっと幸せであるはず・・・」と悩んでいた。
あくなき成功、成長願望に取り付かれていた。

ところが2000年代になって増えてきたのは、
ふつうの幸せはとりあえず手にしているのだけれど、
「いつまでこれが続くのか、これで満足してよいのか・・・」
と自問しているうちに、何が幸せかわからなくなってしまう。
そんなタイプ。

そしてまた更に最近では、
そのとりあえずの幸せ、ふつうに働いてふつうに生活することすら
手に入らなくなっている、といいます。
ホームレス、ネットカフェ難民・・・、
本当にその通りですね。

彼女も認めるように、
そもそもこんな世の中になってしまったのは、
小泉政権時の構造改革、新自由主義などによる過激な競争主義のため。
誰も信用できない。
いったんレールから外れたらもうお終い・・・。
これではふつうの幸せも遠ざかる一方。
・・・ということで、
今、ようやく人々は平凡で穏やかに暮らせる
「ふつうの幸せ」こそ最大の幸福だと気づいたわけです。
だからこその自民党の敗北、民主党の勝利。
やはり転換期なのでしょう。
まあ社会の仕組みの方は、そちらに期待することにして、
この本では、まず私たちの気持ちの有様を変えて見よう、
ということで10の提言がなされています。

恋愛にすべてを捧げない
自慢・自己PRをしない
すぐに白黒決着つけない
老・病・死で落ち込まない
すぐに水に流さない
仕事に夢をもとめない
子どもにしがみつかない
お金にしがみつかない
生まれた意味を問わない
<勝間和代>を目指さない

詳しくはぜひ本をお読みください!
最後の、勝間和代・・・って、私は知らなかったのですが、
『成功の秘訣』みたいな本をバンバン出して売れている方だそうで・・・。
どんなに頑張っても、成功するのはほんのわずかな人で、
大抵はそこまでたどり着かずに挫折するし、
その競争にさえ参加できない人もいます。
そういう人たちをまるでないものとしてしまうのはどうなのか
・・・と香山さんは言っています。


仕事に夢を求めない・・・って言うのは、
私は実感として、その通りと思えるんです。
正直、事務の仕事なんて「夢」とは程遠いです。
まあ、だから私などは、生活のためと割り切って働き続けているわけですが、
でも、そんな中でも、長く続けていれば身につくノウハウもあり、
人から頼りにされたりもする・・・。
ちょっぴりですが、満足感もついてくるものなのですよ。
それでいいじゃないですか。
仕事というのは夢を実現することではなくて、人とつながること。
そう考えたほうがいいんじゃないか
・・・というのが、まあ自分としての実感なのですけれど。


今の若い人を見ていると、
あまりにも頑張りすぎることに、危惧を覚えてしまうことがあるんですね。
もっとゆっくりのんびりやりましょうよ。
頂点なんか目指さなくてもいいんですよ。
・・・最近の私の思いに、とてもしっくり来る香山さんの提案でした。

満足度★★★★☆