映画と本の『たんぽぽ館』

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「ジョゼと虎と魚たち」 田辺聖子

2009年10月27日 | 本(恋愛)
ジョゼと虎と魚たち (角川文庫)
田辺 聖子
角川書店

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先日この映画「ジョゼと虎と魚たち」のブログ記事で、
原作本のほうのオススメをいただきましたので、さっそく読んでみました。
短編集なんですね。
これが確かに、私にはツボにハマりまくりの話ばかりで、
お勧めいただいたIHURUさんに感謝です。

なんというのでしょう、この田辺聖子さんの描くストーリーは、
「愛」とか「恋」とかで表現すべきものではないような気がします。
そういう観念的なものではなくて、
もっと体も心も一体となった「男女の情愛」。
生活観があって、ずしんときます。

描かれる女性はそれぞれなんですよ。


例えば、「うすうす知っていた」の28歳独身の梢。
結婚を夢見ているのだけれど、
出会いの機会もないし、チャンスを作るために踏み出す勇気もない。
結婚なんかしないと宣言していた妹が、
いきなり結婚すると言い出して、心が揺れる。
しかし、ぬくぬくと夢を見ながら実家に暮らし続けるのもありかと思う・・・。


「恋の棺」の宇禰(うね)。
彼女は離婚経験のあるキャリアウーマン。
学生である甥の有二を好ましく思う。
彼はいかにも若々しく、彼女を好きなことが丸見え。
それを知りつつ知らないフリをして、
彼の気持ちを手のひらで転がしてもてあそぶような・・・。
そんな少々残酷な部分も垣間見える。


「雪の降るまで」は、最高にねっとり来ます。
一見目立たなく、さえない女性事務員以和子。
時折ある男性と逢瀬を重ねます。
何度合っても、初めてのように恥ずかしく、そして燃える。
彼には奥さんがいるけれど、
結婚など考えたこともない彼女には気にならない。
実は一生1人で生きるための生活設計はもうできていて、
この様に充実したときが時折もてればよい、
この人とはこれが最後でもかまわない、と思っている。


こんな風で、全く違う女性を描きながら、どの女性にも共感がもててしまう。
つまり、「女」の中には多かれ少なかれ、
こういう部分があるんだろうなあ、と思います。
それぞれの断片を、見事に拾い上げている。
やはり、さすがベテランです。
文中に出てくる「遭難救助のような」とか
「何かがうまくはまってぴったり」というような交わり・・・、
う~む、感じたことないですが、
感じてみたいという気になってしまいますねえ・・・。


さて、肝心の「ジョゼと虎と魚たち」。
これは映画をみて思ったよりも短い短篇です。
大筋は同じながら、少し違うところも。
映画監督犬童一心が、どこをどう表現したかったのか、
そんなことを考えながら読むのも一興かと思います。
一番違うのは、海の底のシーンでしょうか。

映画では、ジョゼが深海で息を潜めてじっとしているシーンは、
彼女の孤独の表現だったように思うのです。
原作では、ジョゼは恒夫と共に深海にいて、
「アタイたちは死んだんや」と思う。
ここで「死」は悲劇を意味しません。
世間と関わらず、ひそかに二人だけの世界に埋没。
そういう閉じられた世界をあらわしていて、
そういう幸せもありかと思わされます。
どちらも納得します。
ただ、映画としては、二人だけで閉じてゆく、
という風に終わることができなかったのかもしれません。

両方、観て読んで、考えることの多い作品となりました。

満足度★★★★★