色即是空 空即是色
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沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻之三 |
夢枕 獏 | |
徳間書店 |
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安禄山の乱の折、長安の都を落ちのびた玄宗皇帝は、
臣下の反乱を抑えるため、愛する楊貴妃を処刑せざるを得ない状況に陥った。
しかしそこに現れた胡の道士・黄鶴は、驚くべき提案をする。
それは、尸解の法を用いて楊貴妃をいったん仮死状態にして難を逃れ、
そののちに倭国―日本に連れて行き、ほとぼりをさますというものだった。
しかしこの案は、恐るべき結末を迎えることとなった…。
遡ること四十数年前。
晁衡こと安倍仲麻呂が詩仙・李白苑に遺した手紙に記された、身の毛もよだつ顛末。
空海は、倭国の言葉で記されたこの手紙を、柳宗元のために読み下す。
一方、青龍寺の恵果のもとにも、妖しき影が現れ…。
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さていよいよ第三巻目。
前巻で、楊貴妃の墓所を暴き、なんとその棺の中が空であったことの謎が、
いよいよ解き明かされます。
それは楊貴妃の死の場に立ち会った、ついに日本に帰ることのなかった今は亡き阿倍仲麻呂が
李白に残した手紙に記されていたのです。
驚愕の真実・・・。
実は楊貴妃は死んではいなかった?!
では、今は一体どこに?
その場に立ち会った道士・黄鶴とその2人の弟子、丹龍・白龍がその秘密を知っている?
まさに身の毛もよだつ顛末。
物語は、こうでなくては・・・。
また、本巻には空海の考えるこの世の成り立ちについても触れています。
色即是空
空即是色
「般若心経」では、この宇宙は五蘊(ごうん)からなるとしています。
すなわち、色。受。想。行。識。
色というのは物質的な宇宙すべてのもの、存在。
その他の4つは人間の側―この宇宙を眺める側に生ずる心の動き。
つまり、
「存在というのは、その存在そのものと、それを眺める心の動きがあってはじめて存在する」
と言っています。
そしてその上、それらはすべて空であると・・・。
何というダイナミズムーーーとは著者の弁ですが、
まるで不意に宇宙にほおり出されるような気がしますね。
さらに空海は友人逸勢にこんなふうにも言います。
「人は老い、死んでゆく。
何者もこの地上にとどまることはできぬ。
哀しみも、天地の法を知ったからといって、消えるものではない。
それをはっきりと知ることによって、人は哀しみの前に立つことができるのだよ。
哀しみすらも、輩(ともがら)として、それを受け止めることができるのだ。
逸勢よ。安心するがいい。
哀しみすらも、永遠には続かぬ。
それを知ることによって、人は、哀しみと共に立つことができるのだ」
しみじみ来ますねえ・・・・
図書館蔵書にて
「沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻の三」夢枕獏 徳間書店
満足度★★★★☆