この場所、このシーンのために本作はあった。
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沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻之四 |
夢枕 獏 | |
徳間書店 |
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そしてもう一通。
玄宗側近の宦官・高力士が遺した手紙には更なる驚愕の事実が記されていた。
その呪いは時を越え、順宗皇帝は瀕死の状態に。
呪法を暴くよう依頼された空海は、逸勢や白楽天、大勢の楽人や料理人を率いて華清宮へと向かう。
そこはかつて玄宗と楊貴妃が愛の日々をおくった場所であった。
果たして空海の目的は―?
堂々の完結。
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いよいよ完結編です。
かつて、玄宗皇帝と楊貴妃が絢爛豪華な愛の日々を送った華清宮。
そこに集った2人にゆかりの人々が、60年を経てまた同じ場所で邂逅することになるのです。
今はもうかつての面影もなく、寂れて朽ち果てようとしているその場所で・・・。
かつて飛ぶ鳥の勢いで栄華をほしいままにした人々が、今老いて衰えた姿で現れます。
すでに亡き人もいて、でもその人物が死んだ年に生まれた空海と逸勢を配するところが、
なんとも絶妙!!
変わり果てた場所で、変わり果てた姿で再会し、酒を酌み交わす人々。
無常・・・といいますか、
全ては変化していく。
生きるものはいつかは死んでゆく。
空海の掴み取った「真理」がここにあるようです。
憎んでも憎みきれない思いも互いに抱いていた彼らは、
しかし今はもうすべて昇華してしまったよう・・・。
かつて逸勢が
「楊貴妃は皇帝の妃としてもてはやされ贅沢三昧の暮らしをしていて、
それで幸せだったのだろうか」
と思う場面がありましたが、その答えもここに出てきます。
また、この期に及んでなんとも驚く真相があったりもして、唸らされてしまいます。
まさにこの場所、このシーンのために本作はあった、と言えるのでは?
そして、いよいよ空海は青龍寺に赴き、密教の真髄を学びとります。
そして本来なら20年のところをわずか2年で、日本へ帰国する運びに・・・。
この時、逸勢の取る行動も面白い!!
このあたりは史実なんですね。
実に、興味深い!!
知れば知るほど、凄い人物なんですねえ、空海。
今までがあまりにも認識不足でした。
そして「あとがき」で著者は言います。
ああ、なんというど傑作を書いてしまったのだろう。
いや、もう、たまりません。
ごめんなさい。
どうぞ御勘弁。
自画自賛、させていただきたい。
本当に、手放しの自画自賛。
本作は描き始めてから17年、四誌に渡って連載してようやく完結したということで、
著者の思い入れも相当なものなんですね。
そして私も十分楽しませていただき、この自画自賛も納得。
やっぱり先に見た映画ではこの充足感は味わえませなんだ。
本ならではの醍醐味でありました。
図書館蔵書にて
「沙門空海 唐の国にて鬼と宴す 巻の四」夢枕獏 徳間書店
満足度★★★★★