自己の尊厳を守ること
青空に飛ぶ (講談社文庫) | |
鴻上 尚史 | |
講談社 |
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青空の下、中学二年の萩原友人は、屋上から飛ぶことを考えていた。
死んでしまえば、いじめは終わる―。
そんな時出会ったのは、九回出撃し生きて帰ってきた元特攻隊員の佐々木友次。
彼はなぜ生き抜くことができたのか。
友人は一冊の本を手に取る。
時代を超えて「生きる」とは何かを問う、心揺さぶる感動の一作。
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中学2年の友人が級友からの陰湿ないじめにあい、死をすらも考えながら、
戦時中の特攻隊の話を読み、「生きる」気持ちをよみがえらせていく物語です。
特攻隊員の話は多く本や映画・ドラマなどで取り上げられていますが、
本作に登場するのは、陸軍航空隊、万朶(ばんだ)隊に所属し、
9回もの出撃命令を受けながらも生還したという実在の人物、佐々木友次。
私は、旧日本軍の飛行部隊は海軍所属だと思っていたのですが、陸軍にもあったのですね。
よくドラマなどに登場するのはほとんどが海軍の神風特攻隊のほう。
陸海軍相互には微妙な反目があって、そのため「特攻」にもライバル意識的なものがあったのでは、
と想像に難くありません。
それにしても飛行機に爆弾を搭載しながらも、投下できないようにして、
体当たりでしか爆発しない仕組みになっていたというのには、驚きました。
そんな中で、「必ず死ぬように」という圧力にもめげず、
その都度生還してきた佐々木氏のメンタルの強さは、
確かに友人でなくてもその秘密を知りたくなります。
それについては、著者が老齢のご本人に直接インタビューしたといいます。
今でこそ自分自身の意見や考えは大事だと言いますが、
その実はちっとも変わらない日本の社会。
そんな中だからこそ、友人がいじめをうけているのです。
けれども、すべてが「同じ」であることを要求された戦時中に、
こんなにも自己の考えを貫き通した人物がいた、というのは驚嘆に値します。
・・・すさまじい話でした。
本作はいじめを受けている友人と、特攻隊員佐々木の話が交互に語られています。
それがどちらもあまりにも理不尽で過酷。
それですっかり私の神経は高ぶってしまい、寝付けない夜が何日か続いてしまいました。
それにしても一つ言いたいのは、
いじめとは戦おうとしないで、さっさと逃げ出すべきだと、常々私は思っています・・・。
それこそ戦時中の特攻隊じゃないのだから、
外に広い世界がどーんと広がっているはずです。
図書館蔵書にて
「青空に飛ぶ」 鴻上尚史 講談社(単行本)
満足度★★★☆☆
感慨においては★★★★★ですが、ここまでいやな意味で心を揺さぶられるのは
実はあまり好きではありません・・・。