映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ひとよ

2019年11月12日 | 映画(は行)

実にやっかいで不思議な「家族」というもの

* * * * * * * * * * * *

タクシー会社を営む稲村家は夫婦と21女、3人の子供たちがいます。

ところが父親のDVが目に余るほどで、いつも子供たちに傷が絶えません。
そのことに耐えられなくなった母(田中裕子)はある夜、夫をタクシーでひき殺してしまったのです。

「あなたたちはもう自由で、何にでもなれる。
15年たったらきっと帰ってくる・・・」
と言い置いて、母は警察に自首します。

 

そして15年後。

3人の元に母が帰ってきます・・・・。

 

母が殺人犯となり、残された子供たち。
父親からの暴力からは逃れることができましたが、それとは別の苦難が押し寄せます。
世間のいわれない偏見。嫌がらせ。

長男・大樹(鈴木亮平)は結婚はしたものの、妻は子供を連れて別居中。
子供の頃からの吃音も相変わらずです。
次男・雄二(佐藤健)は東京へ出てフリーライターをしていますが、
本当に書きたいものは書けていません。
一番下の園子(松岡茉優)は、美容師の夢を諦め、スナックで働いています。
3人それぞれに母が「犯罪者」であることの影を引きずっているのです。
そんなところへ、いきなり帰宅した母。
父からは自由にしてくれたけれども、
その後の混乱を思うとそう簡単に母を受け入れることができない・・・。
そしてまた彼らには、せっかく母が「自由」をくれたのに、
生かしきれていない負い目もあるようなのです。

きしんだ4人の関係が息苦しく迫ります・・・。

 

家族というのは実にやっかいで不思議です。
もう二度と許すことなどできないような胸に刺さる言葉を言われたとしても、
時がたてばまた寄り添えてしまう・・・。
これが他人ならば二度と会わなくなってしまうのでしょうけれど。
なかったことにするのではない。
投げつけられた言葉を嫌悪しながらも、結局帰る場所はここしかない、と言う諦念でしょうか。
あえて愛だの絆だのとは言いたくない気分ではありますが、
それでもそこには確かにぬくもりがある・・・。
許すとか許さないとかではなく、まるごと受け入れるほかない存在が家族なのかもしれません。

 

また、一見真面目そうで、何か訳ありそうな堂下(佐々木蔵之介)のエピソードが
最後のクライマックスにつながるあたりのストーリー運びの妙、素晴らしかった。

 

佐藤健さん、かなりとんがっています。
美青年がとがると迫力があるなあ・・・。
しかし最後に彼が吐露する言葉こそが誠の彼らしい。

松岡茉優さんのはすっぱぶりもまた、迫力があってナイスでした。
この方、「蜜蜂と遠雷」のようなお嬢様風も悪くないけど、
こういう役もまたいいのですよねえ・・・。

 

田中裕子さん演じる母の姿もまた、なんとも言えない味があります。
夫を殺害した妻と言えば、もっと何か狂的なものを想像しまいそうですが、
彼女はそうではありません。
口数少なく、どこか茫洋としながらも、心の底に秘めた覚悟。
そんな凄みがあります。
樹木希林さんの後釜となるのはこの方だなあ・・・。

 

<ユナイテッドシネマ札幌にて>

「ひとよ」

2019/日本/123

監督:白石和彌

原作:桑原裕子

出演:佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、田中裕子、音尾琢真、佐々木蔵之介

 

家族の困惑度★★★★★

満足度★★★★★