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「最悪の将軍」朝井まかて

2019年11月24日 | 本(その他)

本当にダメな殿様?

最悪の将軍 (集英社文庫)
朝井 まかて
集英社

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生類憐みの令によって「犬公方」の悪名が今に語り継がれる五代将軍・徳川綱吉。
その真の人間像、将軍夫妻の覚悟と煩悶に迫る。
民を「政の本」とし、泰平の世を実現せんと改革を断行。
抵抗勢力を一掃、生きとし生けるものの命を尊重せよと天下に号令するも、
諸藩の紛争に赤穂浪士の討ち入り、大地震と困難が押し寄せ、
そして富士山が噴火―。
歴史上の人物を鮮烈に描いた、瞠目の歴史長編小説。

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五代将軍・徳川綱吉。
まず思い浮かべるのは「生類憐れみの令」で、人よりも犬を大事にする悪法を作ったダメな殿様・・・
と言うのが多くの人の印象だと思います。
しかし、最近綱吉は再評価されているといいます。
本作もその流れに沿った作品で、主に綱吉の正妻・信子の視点から描かれています。


綱吉が推し進めた文治政治は、戦国の殺伐とした気風を排除して徳を重んずると言うもの。
戦国の世は遠くなり平和な世となったのに、
いつまでも戦闘能力を磨いていてもしょうがないではないか・・・と言うわけですね。
生類憐れみの令というのも、単純に人の命と同じく他の生き物の命も大事にするように・・・
という話であるわけなのですが、
下っ端役人の無理解か忖度か、はたまた上へのおべっかか、
少しでも犬を粗末に扱えば罰するというような過剰反応をしたために、
庶民には迷惑な法になってしまった・・・。


それでも、大老・堀田正俊がいた頃はすべてうまく取り仕切っていたようなのですが、
彼の死で、綱吉は有能な参謀を失ったのかもしれません。

綱吉が将軍職にあったのは1680年~1709年。
この間、大地震や大火、飢饉、富士山の噴火!
そして、赤穂浪士の討ち入り事件もあったりして、実に大変な期間だったのです。
また、綱吉の実子が病で亡くなったりしています。
なんとも人の命のはかないこと。
こうした中で生き抜くということの貴重さも垣間見えます。

綱吉の今際の言葉を「我に邪(よこしま)無し」として、
最悪の将軍などささやかれながらも自分の理想を信じ続けた生涯を
見事に浮かび上がらせました。

ただ、物語としてはせっかく妻・信子の視点で語られながら、
いかにもつつましく夫を支えるよき妻、と言うのがちょっと物足りなかった・・・

 

「最悪の将軍」朝井まかて 集英社文庫

満足度★★★.5