5号室に住む人々を定点観測
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傷心のOLがいた。
秘密を抱えた男がいた。
病を得た伴侶が、異国の者が、単身赴任者が、
どら息子が、居候が、苦学生が、ここにいた。
―そして全員が去った。
それぞれの跡形を残して。
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長嶋有さんの谷崎潤一郎賞受賞作。
駅からちょっと離れた、ヘンな間取りの二階建てアパート、その5号室が舞台です。
その新築時から50年、すっかり古びて誰も住まなくなるまでの、
その部屋の住人たちが主人公。
けれどそれが、きちんと年代順に並んでいないのです。
文章は、連想方式といいますか、
例えば冒頭、「変な間取りだ」と思った3代目。
同じく、そう思った幾人かを登場させた後、
そう思わなかった2代目に戻ったりします。
水道の蛇口をネジ式からレバー式に交換した人、
エアコンを取り付けた人、
エアコンの暖房を入れたらブレーカーが落ちて、部屋を真っ暗にした人・・・、
一つのテーマを追いながら、この部屋に住んだ人々を代わる代わる紹介していく感じです。
その一人一人の記述のディティールがリアルで、まるでのぞき見たよう。
麻雀に浸る学生やら、単身赴任者、子どもが生まれた夫婦、
居候が同居するOL、奥さんが重篤な病となった夫婦、外国人・・・、
まさしく千差万別、様々な人々がその時代背景とともに描き出されます。
そんな中に一人、なぜかハードボイルドな人(?)がいるのも面白い。
誰が何代目の人かわからなくなってしまいそうですが、
初代が藤岡一平、四代目が四元志郎、7代目が七瀬奈々・・などと、
非常にわかりやすくなっていますので安心!
時代は1966年(昭和41年)から始まり、
その時々はやりのテレビ番組やらアイドルやらの話が出てくるのも興味深いところです。
この家に住む人を定点観測し、テーマごとにまとめてみました・・・みたいな感じ。
あるいはこの部屋自体がタイムマシンであるかのような。
ちょっと変わった間取りのこの部屋に住むのは、
いってみれば普通にどこにでもいる人たち。
けれど、誰もが皆ちがう。
他の誰でもない、一人一人の人生を切り取った一コマ一コマが愛おしく感じられます。
なんともユニークな切り口、そして、その表現力がまた素晴らしい!!
「三の隣は五号室」長嶋有 中公文庫
満足度★★★★★