映画と本の『たんぽぽ館』

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「謎物語 あるいは物語の謎」北村薫

2020年01月18日 | 本(エッセイ)

ミステリの中に埋もれている謎

 

 

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子どもの頃に読んだ童話や昔ばなしに、
スクリーンに映し出される奔馬の姿に、
『吾輩は猫である』の一文に
―本格ミステリをこよなく愛する著者は、多岐に亘る読書や経験のなかから、
鮮やかな手つきでミステリのきらめきを探りだしては、
私たちだけにそっと教えてくれる。
当代随一の読み巧者が、謎を見つける楽しさ、
そして解き明かす面白さを縦横無尽に綴ったミステリ・エッセイ。
宮部みゆき氏が初刊に寄せた読者へのメッセージに加え、
有栖川有栖氏による新解説を収録した新装版。

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本作、創元推理文庫の新刊なのですが、1996年に中央公論社より刊行されたものです。
それで、作中の北村薫氏の著作がときおり登場するのですが、それがかなり懐かしい。
まあ、そんなお楽しみがあってもいいですね。
北村薫氏があまたに読んだ本、特にミステリについて、
そこに埋まっている「謎」を掘り出していきます。
いや、そもそも「ミステリ」は謎の本なのですが、
ここではそのネタばらしということではなくて、
トリックの先例のことや解釈のこと、含蓄のある考察がたっぷり。

 

ミステリにおけるトリックが他作品との類似を指摘される・・・
などということがたまにあるようなのですが、
それは許されないことなのだろうか・・・?
人の考えることだからどうしても似てしまうこともあるだろうし、
実は以前読んだものですっかり忘れていたのだけれど、
まるで自分のアイデアのように湧き出てきた・・・などと言うこともありそうです。
でも、「ミステリ小説」の面白さはトリックだけにあるわけではありませんね。
登場人物の造形、心理描写、動機、結末、トリックの必然性・・・
ありとあらゆるものが著者の力量となる。
だからまあ、トリックの類似にはあまりこだわらなくてもいいのでは・・・、ということのようです。
確かに。
いっそ全く同じトリックで競演(?)してみては?
なんてね。

 

それとは別に、何か元になる本の中の文章があって、
それに呼応するような文章を誰かが書く。
そしてまたそれを受けて別の誰かが・・・というような
連鎖というかキャッチボールを見つけることが著者にはあるようです。
そのためにはいかにも多くの本を読んでいなければなりません。
少なくても私には無理。
そして著者の「円紫さんと私」のシリーズはそういう筋立てが多いですよね。
小説のネタのため、というわけでなく
普段から物語の謎を見つけるのがお好きなんだなあ・・・、北村氏。

「謎物語 あるいは物語の謎」北村薫 創元推理文庫
満足度★★★.5