映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ラストレター

2020年01月23日 | 映画(ら行)

どこを切り取っても美しく切ない

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岩井俊二監督の出身地、宮城県が舞台です。
姉・未咲の葬儀のため実家に来ていた裕里(松たか子)は、
未咲宛ての同窓会案内状を受け取ります。
姉の死を伝えようと、代わりに同窓会に出席した裕里でしたが、
当時生徒会長で人気のあった未咲と勘違いされ、本当のことを言い出すことができません。
そして、初恋の人、乙坂(福山雅治)と再会。
裕里は姉・未咲のふりをしたまま、乙坂と文通をすることに・・・。

実は、過去の高校時代、裕里は乙坂から姉へのラブレターを預かったことがあるのです。
乙坂に憧れていた裕里はその手紙を姉に渡すことができなかった・・・。
(ただしそのことは、まもなくばれてしまうのですが。)
裕里は自分の住所を乙坂に告げていなかったので、一方的に裕里から乙坂へ向けただけの手紙でした。
それも他愛ないこと、犬を2匹飼うことになった、とか、義母がぎっくり腰になったとか。
ところが乙坂はその返事を裕里の実家へ宛てて出します。
それも、もちろん「未咲」宛で。
実家には未咲の一人娘・鮎美(広瀬すず)と、
夏休み中滞在していた裕里の娘・颯音(森七菜)がいて、
この二人が乙坂からの手紙を読んでしまいます。
そして鮎美もまた未咲に成り代わって乙坂への手紙を書く。
奇妙な3角関係の文通となってしまいます。


このSNSに覆い尽くされた昨今で、なぜ今わざわざ「手紙」なのか。
そんなことも考えながら見るのもいいですね。
まあ、SNSならこのような行き違いも起こらないわけですが・・・。

ともあれ、そんな中で次第に浮かび上がってくる高校時代3人の交差する思い。
そして、キラキラ輝いていた今は亡き未咲の姿・・・。
甘酸っぱく切ない思いが広がります。
なんというか本作、どこを切り取っても美しく切ない気がする。
岩井俊二作品の中でも最もロマンチックかもしれません。
およそ25年前の姉妹と現在の従姉妹同士を同じ配役にしたところが効いています。
いかにもみずみずしさを感じさせるこの二人がまたいい!

そのほかの配役がまた、ステキです。
乙坂に福山雅治さん。売れない小説家。
ちょっと自信なさげでさえない感じがなかなかいい。
私今さら気づいたのですが、私はメガネ男子が好きなのです! 
なので、「マチネの終わりに」より、こちらの福山雅治さんの方が好き。


本作の原点的作品、同じく手紙を扱った「ラブレター」に出演した
中山美穂さん、豊川悦司さんが、思いがけない役で出てくるのも見所です。



松たか子さんのどことなくふんわりした雰囲気が、
本作のシリアスになりがちなところを柔らかく包み込みます。
そしてその夫役が庵野秀明氏、というのがなんとも意表を突くなあ・・・。
ホント、次々出てくる俳優さんを見ているだけでも飽きない。

乙坂の唯一のヒット作品「未咲」の本が作中に登場します。
おそらく乙坂の大学時代の未咲との恋愛を描いたものであるはず。
でも、現実の結果を見てわかるように、それは失恋で終わるわけです。
なぜ乙坂と未咲はうまくいかなかったのか、
そして未咲はなぜ阿藤の方に惹かれてしまったのか・・・
そういうことがきっと書かれているはず。
だから私、この本を読んでみたいなあ・・・と切に思いました。
・・・すると先日、福山雅治さんのラジオ番組に岩井俊二監督が出演されていて、
「未咲」の本はもちろん出版されていないのだけれど、
実際にあって、福山雅治さんは映画撮影に先立って監督からその本を渡されたそう。
そしてその本を読んだことが役作りにすごく役立ったそうなのです。
なるほど~。
そういうことなら、ますます読んでみたいです!!

<シネマフロンティアにて>
「ラストレター」
2020年/日本/121分
監督・脚本:岩井俊二
出演:松たか子、広瀬すず、福山雅治、神木隆之介、
   庵野秀明、森七菜、小室等、豊川悦司、中山美穂