それぞれの人物のそれぞれのドラマ
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私、本作が映画化されると知ったときからうれしくて、待ちわびていました。
大好きです、「ダウントン・アビー」。
とはいえ恥ずかしながら私、リアルタイムでのテレビ放送は見ていませんでした。
友人が凄くいいというのを聞いていて、じゃあ、見てみようかなと思ったのがなんと昨年夏頃。
ちょうどAmazonプライム会員の無料メニューの中にあったのです。
しかし全6シーズン、52話。
すべて見るのにはかなりの日時を要しましたが、すごく面白くてむさぼるように見ました。
それなのでまだ記憶にも新しく、実にタイミングの良い本作公開でした。
ダウントン・アビーは英国ヨークシャーにある貴族の大きなお屋敷です。
テレビドラマの本作の第一回目では、この屋敷の相続権のある男性が
タイタニック号に乗っていて死亡してしまったというところから始まります。
貴族は次第にその財力を失い没落していく・・・そんな時期でもあります。
ここのお屋敷の当主グランサム伯爵には男子がおらず、
3人娘の長女メアリーが相続権のある男子と結婚しなければ、
この屋敷の生活を維持できないという状況になっています。
その第一候補が亡くなってしまった。
さあ、どうする・・・!?
・・・という展開になっていくのですが、このドラマで語られるのはメアリーのことだけではありません。
この屋敷に住む家族のことはもちろんですが、そこで働く使用人一人一人のこともしっかりと描かれます。
愛があり憎しみがあり、第一次世界大戦という大きな苦難の時があり、
また破産の危機や思いがけない家族の死、そして誕生。
ありとあらゆるドラマの要素が多重に重なり合い、そして一人一人の個性もくっきり浮かび上がります。
愛すべきドラマです。
前置きが長すぎますが、つまり本作はそういう流れの中のほんの1シーン。
テレビドラマの最終回から2年後。
英国王夫妻がダウントン・アビーを訪れることとなり、その準備に慌ただしいお屋敷の様子を描きます。
使用人たちは、一世一代とも言うべきこの大きなイベントに大はりきりなのですが、
なんと国王専属の使用人たちが乗り込んできて、
すべて自分たちがやるので、あんたたちは何もするなと言う。
気持ちが収まらない彼らは一計を案じ・・・。
このドタバタ劇が見所の一つ。
そしてもう一つは、またしてもダウントン・アビーの相続問題で一波乱です。
ドラマファンとしては、誠に申し分ない一作でした。
作中私が好きなのは、トム・ブランソン。
元はこの一家の運転手でしたが、3女シビルと愛し合うようになり、
当然周りの大反対に遭うも身分の差を乗り越えて結婚。
ところが、このシビル(自由闊達で、大好きでした!)が長女を産み落として死去・・・。
彼は一時娘を連れてアメリカへ発つも、娘の将来を思い、帰国。
今はグランサム家の大事な家族としてともに暮らしています。
アイルランド出身の庶民。
自身の主義的にも貴族の生活になじむのはかなり抵抗があることだったのですが、
努力の末、頼りにされる一員となっているのです。
そしてもう一人は執事のトーマス。
いえ、始めは大嫌いだったのです。
シニカルで意地悪で何かと言えば騒動のもと。
こんなヤツさっさと屋敷からいなくなればいいのに・・・と、しばらく思っていました。
しかしそんな彼のウイークポイントはゲイであるということ。
今ならまだしも、当時は犯罪でもありました・・・。
そのため、自身でもかなり危ない目にも遭います。
しかし、戦場での彼の決断というのがなかなかすさまじかった・・・。
(戦場から逃げ出すための決断だったのですけれど)
けれど戦場から戻ってもやはり彼はあまり変わらないのですが・・・、
でも、もしかするとやっと大人になったということかもしれないけれど、
彼の孤独な心も次第に解けていって、落ち着いてきます。
前任の執事長が引退することになり、ようやく彼が執事長に。
ところが本作では国王を迎えるに当たって、トーマスでは経験不足ということになって、
前任者が呼び戻されてしまいます。
これまでのトーマスなら早速嫌がらせを始めそうなところですが、そうはならない。
彼は自分の時間で、ある冒険を体験。
そしてなんと、彼のハッピーエンドなんですよ♡
いやあ、良かった良かった・・・。
一人一人見ていけばもっといろいろなドラマがあって、話は尽きないのですが、
こうしたバックボーンを知っていれば本作の楽しさ倍増です。
テレビドラマを見ていない方は、登場人物の関係がわかりにくくて少し戸惑うかもしれません。
だからこそ、やはりテレビドラマを是非オススメします!!
<シネマフロンティアにて>
「ダウントン・アビー」
2019年/イギリス・アメリカ/122分
監督:マイケル・エングラー
脚本:ジュリアン・フェロウズ
出演:ヒュー・ボネビル、ジム・カーター、ミシェル・ドッカリー、エリザベス・マクガバン、マギー・スミス、イメルダ・スウィントン
満足度★★★★★