映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

風の電話

2020年01月27日 | 西島秀俊

思いを口に出すことが大事

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西島秀俊さん出演作なので、私らが出てきちゃったけど、
場違いな感じがするくらいのピュアな感動作ですよね。
そうだねー。まあたまにはいいでしょう。

※当ブログでは、西島秀俊さん出演作とクリント・イーストウッド出演又は監督作品について、
 カエルさんとヒヨコさんの、ぴょこぴょこコンビの対談形式でお送りしています。
 単なる趣味で、特に深い意味はありません(^_^;)

まず、あらすじとしては、8年前の東日本大震災で家族を失い、
 広島の叔母の元で暮らしていた17歳の少女ハル(モトーラ世理奈)。
 あるとき叔母が突然倒れ、何もかも奪われてしまうことに絶望したハルは
 さまよい歩いた末に、故郷の岩手、大槌町を目指してヒッチハイクを始めます。
 そうして出会った人々との出来事や心のふれあいを描く作品。

始めの方、叔母さんが倒れた後に、広島の水害のあった地で、
 ハルが泣き叫ぶところがあったでしょう、
 「どうして何もかも奪うのっ!」って。
 そこでぎゅっと心をわしづかみにされる気がする。
 私たちは災害の避難場所などで、被災者へのインタビューをよくテレビで見たりするよね。
 皆さん押し黙ってじっと何かに耐えている・・・そんな様子。
 だけど本当はこんな風に、足をジタバタさせるくらいに泣きわめきたかったのではないかな。
 本当の悲しみを私たちはどれだけわかっていたのかな、という気がしました。

確かに。ここでのハルは泣き叫ぶしかできない。
 そんなハルなのだけど、ヒッチハイクでいろいろな人に助けてもらって、
 そして多くの人がそれぞれの悲しみや苦しみを
 彼女と同じように抱えていることを知っていくんだね。
そうそう、そしてこれから生まれてくる命のことも。
帰りたくても帰る場所のない悲しさも知ります。
 それはクルド人たちの話ではあるけれど、
 原発事故で帰れない人々や、津波で変わり果て、人が極端に減ってしまった町の話でもある・・・。

えーと、モトーラ世理奈さんって、何者?って思ったんだけど。
モデル出身なんだけど、NHKドラマ「透明なゆりかご」に出てたって・・・
え~、うそー。
 それは見てたけど全然おぼえてないわ。
 あのときは清原果耶さんばっかり注目してたもんなあ・・・。
この子は、そんなに派手な顔立ちではないのだけれど、
 しかも本作の役はとても寡黙なのだけれど、
 すごい存在感があって、表現力たっぷり。
今後がすごーく楽しみな感じです。


そして本作中、ハルを見守る役として
 三浦友和さん、西島秀俊さん、西田敏行さんが登場するわけなんだけど、
 このベテラン勢が、新人モトーラ世理奈さんをしっかり見守り支えているという構図にもなっていて、
 なんだかジーンと来ます。

さてそして、本作中の一番の見所はハルが最後にたどり着いた「風の電話」のシーンだね!
これは実際に岩手県大槌町にある、電話線につながっていない電話なんだね。
 きれいな電話ボックスが設置してある。
 そこで、天国にいる誰かと話をしたい方はいつでもどうぞ、ということなんだね。
 毎日多くの人が訪れるそうだよ。
ここまでほとんど言葉らしい言葉を発していなかったハルが、一気に自分の思いを話し始めます。
 ここだけに限らず、この作品は台本はあるけど、セリフが入っていなくて、
 役者さんたちのナマの言葉が語られているそうだよ。
だからここも、モトーラ世理奈さん自身の言葉だったのだって。

自分の役柄やストーリーの流れなどをすっかり理解していなければ、
 なかなかこんなことはできないよね。
 今までため込んでいた思いを、口に出すことによって風化させていくような気がする。
これがなければ彼女は家に帰れないだろうと思う。


あ、作品ではまったく触れられていなかったけど、
 広島ではきっと叔母さんが意識を取り戻して、ハルのことをひどく心配しているのではないかと思う・・・。
とりあえずは早く広島に帰って!!

<シネマフロンティアにて>
「風の電話」
2020年/日本/139分
監督:諏訪敦彦
出演:モトーラ世理奈、西島秀俊、西田敏行、三浦友和

悲しみの表出度★★★★★
満足度★★★★☆