映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

モロッコ 彼女たちの朝

2022年05月08日 | 映画(ま行)

女の敵は女

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マリヤム・トゥザニ監督が過去に家族で世話した
未婚の妊婦との想い出を元に作られた作品とのこと。

モロッコが舞台です。
臨月のお腹を抱え、カサブランカの路地をさまようサミア。
イスラム社会では未婚の母はタブー視され、
美容師の仕事も住居も失い、行き場がなくなってしまったのです。

そんな彼女が、小さなパン屋を営むアブラと出会い、彼女の家に招き入れられます。
アブラも決してサミアを温かく迎えたというわけではなくて、
見るに見かねてやむなくという所ではあったのですが。

アブラは夫を事故で亡くし、娘と二人暮らし。
好きな歌も踊りも化粧も、女としての喜びを心の奥にしまい込んで働き続けていたのでした。

サミアは意外にもパン作りが得意で、
次第にむしろサミアがアブラを支えるような関係に変化していきます。
そして、もっと人生を楽しんでもいいのではないかと、アブラに気づかせていく・・・。

そしてやがて、サミアの出産の時がくる。

 

困難な状況にありながら、やがて生まれてくる命を慈しむ女性の心が
美しく、そしてたくましく描かれます。

本作中、登場するのは女性ばかりです。
男性で登場するのは、アブラに気があるようで何かと面倒を見たがる男と、
共同の窯でパン焼きをする男のみ。
彼は、妊娠中のサミアをみて、座って待つようにと椅子を勧めます。
他に待っていた女たちは
「ふしだらな女を座らせて私たちは立たせておくのかい」
とイヤミを言うのですが。

サミアをクビにした美容室店長も女。
職を求めてさまようサミアを追い払ったのも女。
この社会の中で、女の敵はむしろ女。
未婚の母をタブーとするような意識を
女こそがまず変えなければならないのではないかと、監督は言いたいのかも。
だって、そうした女性の気持ちが分かるのはやっぱり女なのだから・・・。

しかし社会はどうしても偏見に満ちていて、
当の本人が蔑まれたり差別されたりするのは我慢できるとしても、
生まれて来る子どもにはなんの責任もないこと。
そこでサミアは大きな決断をするのです。

なんにしても、若い女性の生きようとする力はすがすがしいものです。

シングルマザー、今や多くの地域ではほとんど当たり前のようなことになっていますが、
そうではないところもまだまだ多いということですね。
戦争とか平和の概念と同じく、女性の社会的地位についても、
日本の当たり前は世界では通じない。
世界を知ることは大切です。

 

作中に、ルジザというモロッコ伝統のパン(?)が出てきます。
麺のように細く長く伸ばしたパン生地を束ねて焼くようです。
これ、食べてみたい!!

 

<WOWOW視聴にて>

「モロッコ 彼女たちの朝」

2019年/モロッコ、フランス、ベルギー/101分

監督・脚本:マリヤム・トゥザニ

出演:ルブナ・アザバル、ニスリン・エラディ

 

世界認識度★★★★★

満足度★★★★.5