命はみな等しく、貴重で尊重されるべきはずだけれど
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実際に起きた障がい者殺傷事件をモチーフにした辺見庸さん同名小説の映画化です。
元有名作家・堂島洋子(宮沢りえ)が、森の奥深くにある重度障がい者施設で働き始めます。
そこで洋子は、作家志望という陽子(二階堂ふみ)や、
絵の好きなさとくん(磯村勇斗)などの同僚と出会い、
また、光の届かない部屋でベッドに横たわったまま動かない
キーちゃんと呼ばれる入所者を知ったりします。
そしてまた、他の職員による入所者への酷い扱いや暴力をも目の当たりにします。
そんな理不尽な状況を見るさとくんは、
正義感や使命感を徐々に増幅させていきますが・・・。
実際にあったあまりにも悲惨な事件ですね。
さとくんは、ろう者の恋人もいて、
本来こころ優しく理想に燃えた青年だったのでしょう。
しかしこのどこかゆがんだ施設にいるうちに、彼自身の考えもゆがんでいきます。
言葉を持たないものは人間ではない・・・と考えるようになってくる。
どのような声かけも心遣いも、ほとんど伝わらず反応もないような入所者がほとんど。
こんな中では、仕事へのやりがいも次第に薄れていくのかも知れません。
そしてハナから入所者を人間扱いしない同僚たちの存在・・・。
ただベッドに横たわり身動きしないものを「無価値」とみなすようになっていきます・・・。
こんな中で、洋子はそれはやはり違うと思う。
というのも、彼女は自身の子供が生まれてすぐに心臓の手術のために障がい状態となり、
寝たきりで結局一言も話すことがなく亡くなってしまった・・・
という経験があるのです。
そんな苦しみを夫・昌平(オダギリジョー)とともに乗り越えてきた。
そしてまた今、洋子は妊娠していることに気づきます。
でもまた同じことを繰り返すことになるのでは・・・と思うと、
出産することにためらいが出てしまいます。
言葉を発することができず、自分の意思表示もできない。
そうした者たちの生きる意味とは・・・?
出産前診断で子供に障がいがあると分かると、
中絶してしまう割合が高いといいます。
重い障害があるものは生きるに値しないのか・・・?
私自身も、生きている限りは人間なのだから、どんな命も尊重されるべき・・・と言いたいけれど、
ちょっとためらってしまう部分もあります。
でもそれを突き詰めれば、さとくんのようになってしまう。
苦しく重大な問いに真っ正面から迫る作品。
磯村勇斗さん演じるさとくんの壊れ方に注目です。
<シアターキノにて>
「月」
2023年/日本/144分
監督・脚本:石井裕也
原作:辺見庸
出演:宮沢りえ、オダギリジョー、二階堂ふみ、磯村勇斗、板谷由夏、笠原秀幸
問題提起度★★★★★
人格崩壊度★★★★☆
満足度★★★★☆