長い「古典童話シリーズ」の旅の始まり
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「十五少年漂流記」として知られる、ベルヌの代表作。
孤島にうち上げられた少年たちが、力をあわせて種々の困難をのりこえ、
自分たちの生活をつくりあげていく痛快な冒険物語。
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「二年間の休暇」は、一般的には「十五少年漂流記」として知られる物語です。
児童書とされるものですが、なぜ今頃になってこの本を読むことになったか・・・
説明すると長くなるのですが、でも、説明したい(^_^;)
先に、福音館書店の編集者さんの話を聞く機会があったのです。
そしてその時の話が、「福音館古典童話シリーズ」のこと。
当シリーズは1968年にこの「二年間の休暇」が第一巻として刊行され、
現在は第43巻「バンビ 森に生きる」(2021年)まで発刊されています。
どなたも学校の図書館などで目にしたことがあるのではないでしょうか。
このシリーズのコンセプトは、完訳決定版を目指したというところ。
多くの古典童話は簡略化したり原書でなく英訳版をさらに和訳したりするもので、
完訳というのはあまりなかったと思います。
そしてもちろん、訳文も美しい日本語による優れた訳文とする。
また、挿絵も可能であれば初版本の挿絵を復刻するなど、芸術性の高いものに。
さらには、本の作りも美しく重厚な装幀で堅牢に。
・・・と、このシリーズに触れてみたくなる話だったので、
今後私の生ある限り、ぼちぼちととなると思いますが、
いっそ始めから読んでみようという気になったわけ・・・。
もちろん、図書館から借りて・・・。
文庫版でも出ていますが、どうせ借りるのなら、しっかりした単行本で読みますね!
それで、第一巻目のこの本。
「十五少年漂流記」は題名とおよその内容を知っているだけで、
もちろんしっかりと読んだことはありません。
そもそも500ページ以上の大作。
でも思った以上に興味深くするすると読めました。
1860年、イギリスの植民地であるニュージーランドのオークランド、
チェアマン寄宿学校に学ぶ少年たちが、
休暇を過ごすはずの航海で嵐に遭い、無人島に流れ着きます。
年長者でも14歳、年少で8歳という15人の少年たち。
無人島の話といえば南の島をつい連想するのですが、
本作確かに南の島ではありますが南半球のこと故、
かなり南に位置するこの無人島は、冬は雪と氷にとざされるかなりの寒冷地。
冬を越すことが、生き延びるための大きな課題なのです。
しかもこの「冬」は北半球とは逆。
7月8月あたりが真冬なんですね。
そしてこの島は思ったよりも広い。
中央に大きな湖があって大きな川も流れている。
そのため少年たちは島の全容をつかむのにも四苦八苦します。
まずは15名分もの食料をどう調達するか。
地形を把握し、厳冬期に備え、そしてこの島から脱出するための方法を探る・・・。
難題ばかりです。
リーダーシップに富み、実行力のあるものもいれば、
自己顕示欲が強く不平不満を口にするものもいます・・・。
15名の集団生活が一時は分裂しかけることも・・・。
しかし、全体的な私の印象ではこの少年たち、
現代の大人たちよりよほど生活能力があります。
ほとんどが、お金持ちのお坊ちゃまたちなのですが、
多くの生きる術や知識を身につけています。
そこが、何でも機械任せ、大人任せの現代の少年少女とは違うところ・・・。
そして、彼らは銃も扱います。
ここでは船ごと島に流れ着いたので、船本体は航海できないほど破損していますが、
積荷はほとんど無事。
船には銃器も積んであって、彼らは普通にそれを扱い、島で狩りをして食料を調達したりします・・・。
そして最後にはこの武器が戦闘に使われたりするのが、今ではちょっと考えられない展開・・・。
とても現代の少年少女ではムリ・・・。
そういう時代性を考えるのにも意義があるかもしれません。
<図書館蔵書にて>
「二年間の休暇」J・ベルヌ 朝倉剛訳
「福音館古典童話シリーズ」第一巻
満足度★★★★☆