映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「地中の星」門井慶喜

2022年09月10日 | 本(その他)

プロジェクトXだけど“地中の星”

 

 

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渋沢栄一を口説き、五島慶太と競い、東京に地下鉄を誕生させた男の熱き闘い!

資金も経験もゼロ。
夢だけを抱いてロンドンから帰国した早川徳次は、
誰もが不可能だと嘲笑した地下鉄計画をスタートアップし、
財界大物と技術者たちの協力を取り付けていく。
だがそこに東急王国の五島慶太が立ちはだかる! 
『家康、江戸を建てる』の著者がモダン都市東京の揺籃期を描く、
昭和二年のプロジェクトX物語。

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日本初の地下鉄を誕生させた人、早川徳次(のりつぐ)の物語。

なるほど、誰が始めに東京に地下鉄を作ったのかなんて考えたことがありませんでした。
日本初の鉄道は割と話題になるのですけれど。

徳次は、大学を出てから鉄道畑に進むのですが、
会社勤めがイヤになり、やがて辞めてしまいます。
結婚して養うべき妻もいるのに、何か大きなことをしたい、と夢ばかりは大きく、
しかし具体的にやりたいことが見つからない。
そこで、その「何か」を探しにロンドンへ渡り、地下鉄に出会うというわけです。
その時の渡航費用はなんと当時の内閣総理大臣・大隈重信に話をつけて出してもらった。
具体的な研究目的もないままにOKが出るというのが
なんとも当時の人々というか大隈卿の、太っ腹のところが垣間見えてステキなんだなあ・・・。
とにかく貪欲に海外の技術を取り入れたいという気持ちの表れなのでしょう。

 

さて、そのように地下鉄を通すという大きな目標はできたものの、
何から手をつければ良いか皆目分からない。
もちろん資金など全くない。

そんな彼がとりあえず始めたのが交通量調査なのです。
当時東京には電車が走っていましたが、何しろ超満員の大変な代物。
どこに地下鉄を通せば良いのか、まずそこから考えた・・・。
なんとも先の長い話。

でも、千里の道も一歩からですね。
徐々に実現へ向けてことが動き始める。

 

資金集めには、渋沢栄一に相談に行きました。
その時渋沢氏はすでに実業家は引退していて
あっさりと「金はないので出せない」と言うのですが、
有望な人物を紹介してくれるのです。
このストーリー自体は2018年から描かれているもので、
当然NHK大河ドラマ「青天を衝く」以前のものですが、
今、ドラマを見た私としてはここで渋沢栄一が登場することで、
より物語自体に親しみを覚えます。

いよいよ工事が始まってからも、その苦労話が語られます。
そこの部分は実際に工事に携わった人々の視点で語られて行きます。
結局地下鉄は昭和2年(1927年)12月、浅草~上野間2.1キロが初めて開通。
その後順次延伸し、最終地新橋までが完成したのが昭和9年(1934年)6月。

東京の地下鉄事情には全く疎い私にはピンとこないのですが、
東京にお住まいの方なら、へえ~と思うのでしょうね。
その路線は、現在も東京メトロの銀座線として健在。
(・・・ということでいいのかな?)

その先の渋谷までは、徳次のライバル・五島慶太が造ったもので、後に合体。
そのいきさつもなかなか興味深く描かれています。

地下鉄創世記の人間ドラマ。
楽しめました。

<図書館蔵書にて>

「地中の星」門井慶喜 新潮社

満足度★★★★☆

 



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