自らの罪の意識に苦しめられながら
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1949年。
ナチスドイツの強制収容所アウシュヴィッツから生還したハリー。
アメリカでボクサーとして活躍しながら、生き別れた恋人レアを探していました。
ある時、レアに自分の生存を知らせるために受けた取材で、
ハリーは自分が生き残ることができた理由を語り始めます。
それは、ナチスの兵たちの娯楽としての賭けボクシングで、
ハリーが同胞のユダヤ人たちに勝ち続けたから。
でもこの試合は実に過酷で、どちらかが倒れるまで続けられ、
敗者はその場で射殺されるという運命を担っていたのです。
まさにハリーは自らが生き残るために勝ち続けた・・・。
このセンセーショナルな取材記事は世間の注目を集めましたが、
レアはそれでも見つからず・・・。
こんな話は、人には絶対に話したくはなかったでしょうね。
けれど、ハリーはレアに再び会うことだけを夢見て、
試合に「勝つ」ことを選択し続けたわけで・・・。
だからこそ是が非でもレアと再び巡り会って、自分の選択の正しさをかみしめたかった。
このことが世間に知れて、冷たい視線をなげつけられても、
やむを得ないと思ったのでしょう。
けれど、人に話す話さないに関わらず、
ハリーは常に自分のなかの罪の意識に苦しめられていたはず。
戦争の過酷な状況を生き抜いた人はよく言います。
周囲の多くの人が命を落としたのに、
なぜ自分は生き残ったのか。生き残ってしまったのか。
まるで今自分が生きていることが罪のような、後ろめたいような・・・。
そんなことは決してないのに、そうした意識に囚われて苦しむ方が多いようです。
そしてこのハリーは、周囲の人の「死」に対して、自分にも責任があるということで、
その苦しみは幾ばくかと、胸が締め付けられるような気がしてしまいます。
この物語は、ハリー・ハフトの半生をその息子がつづった実話を映画化したものなんですね。
あ、だから終盤にハリーが息子に体験談を語るシーンがあったワケです。
本作の撮影に当たり、ハリー役のベン・フォスターは28キロの減量を行い、
そしてまた28キロを増量したとのこと。
まさにアウシュヴィッツのハリーは骨と皮のようになっていましたものね。
役者さんも大変だ・・・・。
けれど本作はあの体なくしてはなりたたないですね。
<サツゲキにて>
「アウシュヴィッツの生還者」
2021年/カナダ・ハンガリー・アメリカ/129分
監督:ハリー・レビンソン
原作:アラン・スコット・ハット
出演:ベン・フォスター、ビッキー・クリープス、ビリー・マグヌッセン、ピーター・サースガード
歴史発掘度★★★★☆
過酷な体験度★★★★★
満足度★★★★.5
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