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最後の決闘裁判

2022年01月19日 | 映画(さ行)

正しい者には、神のご加護がある・・・?

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1386年、中世。
百年戦争さなかのフランス。
ジャンヌダルクが登場するよりまだ前のことですが、
フランス史上最後に行われた「決闘裁判」として事実に基づいている物語です。

決闘裁判というのは、二者の間で何かもめ事があったときに、
衆人環視のなか、その当人同士で決闘を行う。
正しいものには神のご加護があるはず、ということで
勝者は正義と栄光を得て、
敗者は罪人として死刑(というか、決闘で負けた時点ですでに死んでますが)。

さてそれで、ここでのもめ事とは。
騎士カルージュ(マット・デイモン)の妻マルグリット(ジョディ・カマー)が、
夫の旧友ル・グリ(アダム・ドライバー)に強姦されたという事件。
目撃者はナシ。
妻の話を聞いたカルージュの訴えに対し、ル・グリは無実を主張。
その決着は生死をかけた「決闘裁判」に委ねられることになります。

妻の潔白を晴らすために命がけで闘う騎士の物語。
と言えば単に美談ではありますが、実はそう簡単な話ではありません。

本作はまずその事件を3者の視点から、同じ出来事を順番に語っていきます。

まずは、カルージュ。
そして、ル・グリ。
二人は実際良き友はあったのです、以前までは。

カルージュは無骨そのものでプライドが高い。
しかし世渡り下手なために、損をすることが多く生活は豊かではない。

一方、ル・グリは世渡り上手で、女好き。
領主に気に入られて、カルージュが後を継ぐはずだった父の仕事を
ル・グリが後任になってしまった。
そりゃ恨まれますよね。
ただし、実務的に有能なのは確かのようでもあります。

こんな二人なので、同じ事柄に対しての思いはそれぞれ。
双方、自分の都合の良いように考える。
まあ、それは当然のことではありますが。

ところが、最後にマルグリットの視点で語るところで、様相は一変します。
カルージュは見栄っ張りで、妻その人よりも外聞が大事であるようです。
そして、ル・グリは常にモテモテなので、
女性に拒否されるということを考えたこともない。
すなわち、カルージュもル・グリも、
本当のマルグリットを見ようとしないという点では同じ穴の狢。

その底辺には、当時「女性の権利」などというものはなかった、ということがあります。
この裁判も、正確には「カルージュの財産(妻)が傷つけられた」
ということになります。

そして、これまで5年夫婦として暮してきて、夫婦には子供ができなかった。
しかしなんと、このたびの強姦で、彼女は妊娠してしまったのです。
当時、女性が絶頂に達したときに「妊娠」すると思われていたのです。
だから、妊娠したからには絶頂に達したのだろう。
すなわち、同意の上のことで、強姦ではない・・・と考える者多数。
ル・グリは、マルグリットは絶頂に達していたと、勝手に思い込んでいます。

そしてさらに、もしこの決闘裁判で夫カルージュが負ければ、
マルグリットは「偽証」していたということになり、
その罪で火あぶりにされるというのです。
そしてこのことをマルグリットはカルージュから聞かされていませんでした。

なんと身勝手な男の論理。
なんと女が生きるのに不自由なこの時代、この世界。

 

本作はマルグリットが語り始めることによって、非常に大きな問題提示をしたわけです。
確かにこれは、現代にも未だに通じるストーリーなのでした。

 

それにしてもこの最後の決闘シーン、実に迫力があります。
騎馬で、長い大きな槍を構えての一騎打ち。
最後には馬も傷つき、まさに肉弾戦となっていきますが、恐い、恐い。
どうでもいいから早く終わらせて、と思ってしまいました。
しかしこれはマルグリットの運命がかかっていることもあって、
まさに、息をのむ決闘シーン。

堪能しました。
内容も、映像も、実に圧倒される作品です。

<WOWOW視聴にて>

「最後の決闘裁判」

2021年/アメリカ/153分

監督:リドリー・スコット

脚本:ベン・アフレック、マット・デイモン、ニコール・ホロフセナー

出演:マット・デイモン、アダム・ドライバー、ジョディ・カマー、ベン・アフレック

 

決闘の迫力度★★★★★

女性の生きにくさ★★★★★

満足度★★★★★

 



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