狂おしいほどの勝負への傾倒
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第69期名人戦の最中、詰将棋の矢文が見つかった。
その「不詰めの図式」を将棋会館に持ち込んだ元奨励会員の夏尾は消息を絶つ。
同業者の天谷から22年前の失踪事件との奇妙な符合を告げられた
将棋ライターの〈私〉は、かつての天谷のように謎を追い始めるが――。
幻の「棋道会」、北海道の廃坑、地下神殿での因縁の対局。
将棋に魅入られた者の渇望と、息もつかせぬ展開が交錯する傑作ミステリ!
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奥泉光さんの将棋をテーマとしたミステリ。
いえ、ただのミステリではなく、幻想ミステリとでも言うべきでしょうか。
語り手となる北沢は、かつて将棋界のトップを夢見ていたものの、あえなく挫折。
今は将棋関係のライターをしています。
とある名人戦の最中、かつての北沢のライバル夏尾が
謎の詰将棋の図面を将棋会館に持ち込むが、その後失踪。
北沢は同業者の天谷から、22年前にも同様の失踪事件があったと聞き、
かつての天谷のように、その謎を追い始める・・・。
ということで北沢が向かったのは、北海道のとある廃坑。
そこで北沢は戦慄の体験をして・・・。
将棋盤の奥中に、魔の基盤が潜んでいて、
そこではまさに命がけの勝負が繰り広げられる・・・と言った、
不気味でおぞましく、そして力強くもあるというこの雰囲気こそが本作の真骨頂。
結局この魔界は、北沢の脳内で繰り広げられるだけではありますが、
あながち狂いかけた個人の妄想と一蹴しきれないような、
妙なほの暗いリアリティがあります。
真の将棋の勝負の世界は、こうしたものなのかも知れないと思わせるような。
世に名を残す名棋士は皆この魔の将棋を知っている、
というようなことにも不思議に納得が行くような。
正直、私は将棋音痴ではありますが、
本作の面白みは十分に伝わりました。
このイマジネーションを創り上げた著者には感服します。
よほど将棋がお好きなのでしょうね。
「死神の棋譜」奥泉光 新潮文庫
満足度★★★★☆
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