新たな生を受け、生きていく
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アカデミー賞候補の話題作。
ヴィクトリア朝イギリスらしき舞台ではありますが、
どこか寓話めいて不思議な世界感が繰り広げられます。
不幸な若い女性が橋から飛び降りて自殺。
風変わりな天才外科医ゴッドイン・バクスター(ウィレム・デフォー)が
その死後間もない遺体を引き取り、
妊娠中の遺体の胎児の脳を遺体に移植し、奇跡的蘇生に成功します。
大人の体を持ちながら、頭脳は新生児というベラ(エマ・ストーン)の誕生です。
ベラは、みるみることばや知識を吸収していきます。
赤ん坊→幼女→少女くらいに知恵を身つけていく頃には、
学問的な知識は下手な大人以上になっています。
けれど、屋敷から外に出たこともなく、世間的な生活能力もない。
全く無垢でありながら、知識は人一倍、
そして世の中のことが何もわかっていないという、アンバランスな状況に・・・。
そんな時に、放蕩者の弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)に誘われ、
大陸横断の旅に出ることに。
初めて見る世界と、あけすけなダンカンとの性の快楽に幸福を見出すベラですが、
ある時、地上の食うや食わずで貧困にあえぐ人々の生活を見てしまいます。
これまでベラは上層階級の暮らししか知らなかったのでした。
ベラはダンカンの財産を貧しい人々に寄付(実はだまし取られた)してしまい、
ダンカンとは破局。
ベラはパリの街で1人身を立てていかなければならなくなりますが・・・。
通常は20年近くかけて、子供から大人へと知識や良識を身につけていくものですが、
ベラはごく短期間のうちにそれを成し遂げます。
だからその過程で見聞きしたモノの影響がとても大きい。
ひとたび性の快楽を味わえば、ほとんどそれこそが生きる意味くらいの認識が芽生えます。
けれど、思いのほかベラは聡明で、善悪や正義の判断力をもまたしっかり身につけていく。
だからこそ、経済的格差にあえぐ下層階級の人々のことを知れば、
ひどくショックを受けてしまう。
とてつもない奇妙な生い立ちを経ながらも、
しっかりと自立へと目覚めていくベラの成長ぶりに胸が躍ります。
顔がつぎはぎだらけの、まるでフランケンシュタインみたいなバクスター博士の
人物造形がなんともユニーク。
R18のなかなか刺激の強い作品ではありますが、
映画の面白さをじっくり味わえる作品でもありました。
<シネマフロンティアにて>
「哀れなるものたち」
2023年/イギリス/142分
監督:ヨルゴス・ランティモス
原作:アラスター・グレイ
出演:エマ・ストーン、マーク・ラファロ、ウィレム・デフォー、ラミー・ユセフ、クリストファー・アボット
異界度★★★★☆
満足度★★★★☆
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