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「不連続の世界」 恩田陸

2011年12月17日 | 本(SF・ファンタジー)
日常が非日常へとペロリと裏返し

不連続の世界 (幻冬舎文庫)
恩田 陸
幻冬舎


              * * * * * * * *

「月の裏側」に登場した塚崎多聞が再登場。
彼が遭遇した不可思議でちょっぴり怖い出来事を綴る、連作短編集です。
でも、これらの発表時期はかなりばらついていて、
10年近くに跨がっているとのこと。
それにしては、ほとんどが旅の途上であったりするようなトーンがそろえられていまして
一気に書き上げたかのようなのはさすがです。


「砂丘ピクニック」では、鳥取砂丘が近年特に小さくなってしまい、
思ったよりみすぼらしいというリアルな感想をにじませながらも、
しかし実は遠近感の不思議で、実際には結構広い・・・
そういう実感としての不思議さが顔をのぞかせるところがステキでした。


旅という非日常を行く多聞が、幻想的な事象を呼び寄せていく・・・。
恩田陸ならではの不可思議ワールドがたっぷり堪能できます。


さてしかし、最後の「夜明けのガスパール」では、
すっかり驚かされてしまいました。
そこまでは、あくまでも多聞は旅人であり、不思議なことを見る者、聞く者という役割でした。
ところがここでは、まさに彼自身の抜き差しならない事情が主題となるのです。
妻と別居中の多聞と、三人の友人が
「夜行列車で怪談をやりながら、さぬきうどんを食べに行く旅」という、
それはちょっと怖いけれど、のどかな情景のはずだったのですが・・・。
車中、何度も多聞の携帯にかかってくる無言電話。
友人は言う。
「おまえの奥さん、もうこの世にいないと思う。おまえが殺したから」


「日常」と思っていたモノが「非日常」へとぺろりと裏返しになるような
・・・くらくらした思いに襲われてしまいます。
これだから恩田陸は止められないのです。
本当に。

「不連続の世界」恩田陸 幻冬舎文庫
満足度★★★★☆


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