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ある船頭の話

2021年04月11日 | 映画(あ行)

実直に淡々と船を漕いできた男が・・・

* * * * * * * * * * * *

オダギリジョーさんの、長編映画初監督作品。

橋の建設が進む、ある山村。
川岸の小屋に暮らし、村と町をつなぐ渡し船の船頭をしているトイチ(柄本明)。
村人の源三(村上虹郎)が時たま遊びに来るくらいで、
黙々と渡し船をこぐ毎日です。

ある日、トイチは川から流れてきた一人の少女を救います。
自らの身の上も話さないかたくなな少女を、
トイチは「好きなだけいていい」と受け入れ、奇妙な同居生活が始まりますが・・・。

様々な人々がここを訪れます。
貧しい船頭を馬鹿にするもの、親しげに話しかけてくるもの、
トイチを気遣うもの・・・。
誰に対しても寡黙にトイチは船をこぐのみ。

毎日船を洗って、お客が来るのをまち、
ヒマなときには釣りをして、質素な食事をとり、
夜は手すさびに木を彫る。
最低限の生活ではありますが、これ以上のものは必要ない。
そのように、彼はわきまえているようです。

しかし、まもなくこの川に橋が架かる。
村の人々は「便利になる」と、楽しみにしています。
でも、そうなると渡し船に乗る人はいなくなってしまう・・・。
その時はその時・・・と、トイチは思おうとしていますが・・・。

少女が加わってもトイチの生活はほとんど変わりません。
人の生活していく上での幸福とは何なのか。
貧しくとも、少女が来たことで孤独も紛れる。
この状態こそが幸福といってもいいのでは。
でも人々はもっと上の生活をどうしても望んでしまうものらしい。
川は渡し船で渡ることができてもそれでは満足せず、
もっと簡単に早く渡れる橋を望む。
忘れられた、船頭はどうすればいい・・・?

しかし、ストーリーは思いがけずに鮮烈なラストに突き進みます。

ときおり登場する人の姿をしたキツネらしきものは、
トイチを俯瞰して見るもう一人のトイチの別の姿なのでしょうか。
作中「狐」という字が孤独の「孤」の字に似ているという下りがあります。
私たちから見ても十分にいい人に見えるトイチですが、
それでもなお「本心とは違う善人ぶった自分」を見ている、というのはスゴイ。
人から見下され、踏みつけにされるような人生でも、
それでも「個」としての魂の炎はあるのだ・・・
そんなふうに言っているようにも思います。

柄本明さん、さすがベテランの味。
いかにも手なれたふうに船をこいでいましたが、
実はなかなか難しいのでは?と思います。

孤独な少女役の川島鈴遙さんも、良かったです。

<WOWOW視聴にて>

「ある船頭の話」

2019年/日本/137分

監督・脚本:オダギリジョー

出演:柄本明、川島鈴遙、村上虹郎、草笛光子、永瀬正敏、橋爪功

 

寓話性★★★★☆

満足度★★★★☆

 



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