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「パスタマシーンの幽霊」 川上弘美

2013年07月29日 | 本(恋愛)
女達の不可思議な恋の物語

パスタマシーンの幽霊 (新潮文庫)
川上 弘美
新潮社

 
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恋をしたとき、女の準備は千差万別。
海の穴に住む女は、男をすりつぶす丈夫な奥歯を磨き、
OLの誠子さんは、コロボックルの山口さんを隠すせんべいの空き箱を用意する。
おかまの修三ちゃんに叱られ通しのだめなアン子は、
不実な男の誘いの電話にうっかり喜ばない強い心を忘れぬように。
掌小説集『ざらざら』からさらに。
女たちが足をとられた恋の深みの居心地を描く22の情景。


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この本には22篇のショートストーリーが収められていますが、
どれもほんのり余韻に満ちた作品です。



表題の「パスタマシーンの幽霊」
風変わりの題名に興味を惹かれますね。
「あたし」はあるとき、恋人隆司の部屋にパスタマシーンを見つけます。
「あたし」は料理がニガテでそんなものは使うはずもなく、
そして独身男子の隆司が使うとも思えない。
そこで「あたし」は、他の女の存在を感じてしまうわけです。
料理が得意でスペイン料理かなんかをぱぱっと作ってしまう「パエリア女」。
しかし、隆司は、これは亡くなった「ばあちゃん」のもので、
その亡くなったばあちゃんが時々現れてパスタを打っていたなどという・・・。
その後、隆司とは会わなくなった「あたし」だが・・・。
不思議なオチのあるストーリーなのですが、
きっぱりとした起承転結にならないのが、ここのストーリーたちのいいところ。
本作、題名は「ケチャップごはん」でもいいような気がしますが、
やっぱり「パスタマシーン」のほうが、ひと目を引きましょうか。
私的にはケチャップご飯はパス。
そもそもケチャップはあまり好きではない・・・。
バターを使うなら、絶対お醤油ですよ!
(どうでもいい話でした・・・)


「お別れだね、しっぽ」
「あたし」にはしっぽがある・・・。
それは犬のようなあのしっぽではなくて、影とか分身のようなもの。
時折人生の分岐点になりそうなところへ現れて、
「あたし」の進むべき方向を示唆してくれる。SFかオカルトっぽい設定ですが、
そんなことはなくて、「あたし」はごく普通の人生を歩んでいきます。
でもふと思う。
「あたし」はしっぽに導かれてここまで生きてきたけれど、
これでいいのだろうか。
しっぽに従わなかった人生もアリなのでは・・・? 
もしかすると「しっぽ」というのは、社会的規範とか、一般的に正しいあり方のことなのか・・・と思ったりもしますが、
まあ、そこまではあえて考えないほうがいいのかも。
まあ、時にはしっぽに居てほしい気がすることがあります。

「パスタマシーンの幽霊」川上弘美 新潮文庫
満足度★★★★☆


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