映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

早春(1956)

2022年02月01日 | 映画(さ行)

昭和のコミュニケーション

 

 

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引き続き、小津安二郎監督作品。

蒲田から丸ビルの会社に通勤するサラリーマン、杉山正二(池部良)。
妻・昌子(淡島千景)と結婚して8年目になります。
正二は、毎朝同じ電車に乗り合わせる通勤仲間と親しく交流があり、
麻雀をしたり、時にはハイキングに行ったりもします。
そんな仲間の一人、皆からキンギョ(岸惠子)と呼ばれる女性と急接近し、
ついには間違いを犯してしまいます。
そのことに感づいた昌子は、家を出て行ってしまいます。
そしてそんな時に、正二に地方転勤の話があり、
一人、岡山の三石へ・・・。

 

終わりの方、先日見た「お茶漬の味」にそっくりなので、笑ってしまいました。
制作年で言うと4年ほどの開きはあるのですが・・・。
でもこちらの方が“庶民”の話なので、好きです。

 

本作は、サラリーマンの哀愁と、夫の浮気がテーマ。
当時、「戦後」が落ち着き、高度成長が始まる頃でしょうか。
東京の通勤ラッシュが始まり、
生活は安定しているけれど、そこそこの安月給というサラリーマンがどんどん増加中。
しかしいきなり地方に飛ばされたり、
ボーナスも、勤め上げた退職金も期待したほどではない・・・
という現実も見えてきている、とそんなところのようです。
パソコンのない職場風景というのも、なんだか今となっては懐かしい。

 

オフィスの廊下、ドアの脇にバケツが置いてあるのが気になりまして。
そういえば先の「お茶漬の味」でも見かけた。
このバケツは何だったのか・・・。
で、そういえば思い出しました。
あのバケツはタバコの吸い殻入れではないでしょうか。
室内の灰皿から、吸い殻をまとめて捨てておくものだったような・・・。
防火上、吸い殻の入った灰皿をそのままにして全員が退勤したりするのはまずい。
少なくとも室内の灰皿はすべてカラにして退勤する、ということだったような。
吸い殻の始末をする人も、この方が楽ですしね。
そもそも室内禁煙で、灰皿もない現在では、もう見ることもないものですね。

 

それから、当時のコミュニティのこと。
同じ通勤電車に乗り合わせた人たちが親しくなって・・・というのは、
今ではほとんど考えられないような気がします。
ま、全くないとは言いませんが。
そしてこの頃、戦友の仲間の会もあったのですね。
同じく生死をかけて闘った仲間。
確かに、この絆はなかなか強そう。
いろいろな職業の人がいて、面白そうでもある。
これこそ今ではもう、皆無でありましょう。
SNSはもちろんですが、個人の家の電話もめずらしかったあのころは、
人々のつながりもいろいろなところにあって、
今よりもぬくもりがあったのは確かです。
それがいいことばかりとはかぎりませんが。

 

・・・ということで、やはりストーリーも面白いけれど、
当時の時代背景を見るのがまた、とても興味深いのです。
セットではなく、当時そのままのリアルなのがいい。

 

さて、このように時代は確かに移り変わっていますが、変わらないのは男女の間柄。
夫婦の気が合わなかったり、浮気してみたり。
こういう感情は今も全く変わりません。
まあだからこそ、今見ても納得のいくことばかり。

ただし、この優しそうな夫でさえも、帰宅して「メシ、まだか」と言ったり、
夜中に酔っ払った友人を連れ帰ったり。
そういうのは、今なら完全にアウトっぽいですが。

しかし、あんなキレイな奥さんににらまれたら、
凍り付きそうに恐いですよね・・・。

 

<WOWOW視聴にて>

「早春(1956)」

1956年/日本/144分

監督:小津安二郎

脚本:野田高梧、小津安二郎

出演:池部良、淡島千景、浦辺粂子、宮口精二、岸惠子、杉村春子、笠智衆、山村聡

 

時代性★★★★★

満足度★★★★☆

 



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