「狂える」世界
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西島秀俊さん出演なので、常ならば劇場で見るところですが、
私の好きなテーマではなかったので、配信視聴できるまで待ちました。
まあ、つまり血みどろの抗争劇ということで・・・。
年齢も信条もバラバラ、互いに素性も知らない5人組の強盗チームが、
ラブホテルで秘密裏に行われていたヤクザの資金洗浄現場を襲い、
数千万円の強奪に成功します。
彼らは金を山分けし、何食わぬ顔で日常生活に戻ります。
一方、金を奪われたヤクザが、それで事を済ますはずがありません。
かねてからの手飼いの現役の刑事を雇い、強盗チームを本気で追い始めます。
また、強盗チームからもヤクザからも、いいように使われて分け前ももらえず、
ただ踏みつけにされた若い男女2人が、不穏な動きをしはじめます。
とにかく殺伐とした登場人物たち。
元ヤクザで今は足を洗ったけれど、
妻の実家が経営している旅館の再建資金を稼ぐために今回の強盗に加わった、安西(西島秀俊)。
とにかく妻と娘との関係を修復したいと思っています。
表向き物腰は柔らかいけれど、しかし、奥底には凶暴性が・・・?
根っからのサディストであり凶悪人。
タトゥーだらけのアブナイ奴・萩原(斎藤工)。
斎藤工さんがこの役を楽しんでいることがうかがわれます・・・。
元政治家秘書という、左翼崩れの老人・浜田(三浦友和)。
最近、三浦友和さんを映画やテレビでよくお見かけするのですが、
どれもハマっていますねえ。
潜入捜査にはあらず。
金のために、ひたすらヤクザの言いなりで働くクズ刑事・蜂谷は大森南朋さん。
全くタチが悪いけれど、どこか憎めないのはやっぱり大森南朋さんだから?
そして、社会の底辺でもがく若い2人。
ラブホテルの従業員・矢野(宮沢氷魚)と、風俗嬢・美流(玉城ティナ)。
大金が手に入ったら、海辺の町に行って、観光客相手にかき氷を売ろうなんて、
ごくごくささやかな夢を語り合いますが、そのようなことすらも叶わない2人。
ヤクザにも強盗団にもザコ呼ばわりされ、世間一般の人からも踏みつけにされている・・・。
この2人の存在が、本作に価値を与えていると思います。
本作は犯罪者側、つまりは「あちら側」の物語のように思えるのですが、本当にそうなのか。
元ヤクザの安西は、元ヤクザであることをひた隠しにして旅館で働いているのですが、
いつしかそのことが周囲に知られてしまい、それまで得た信頼も何もかもすっかり失ってしまいます。
「こちら側」の人だって、たいしたモノではない。
「こちら側」の最先端、正義の人であるべき刑事が、ヤクザとズクズクの関係だったりもする。
矢野と美流に至っては、すでに「あちら側」も「こちら側」もなく、
軽々とその境界を越えてみせる。
つまり元々そんな境界なんてないのかも知れません。
すべてが同じく「cruel world」である、と。
安西と蜂谷は最後に互いに笑ってこの「cruel world」に別れを告げるでありました・・・。
まあ、確かに血みどろで、好きな作品とは言いがたいのですが、
でもなかなか味わいがありました。
Cruelは、ひどいとか残酷なという意味ですが、
「狂える」でもいいな、などと思ってしまった。
<Amazonプライムビデオにて>
「グッバイ・クルエル・ワールド」
2022年/日本/127分
監督:大森立嗣
脚本:高田亮
出演:西島秀俊、斎藤工、宮崎氷魚、玉城ティナ、大森南朋、宮川大輔、三浦友和
残酷度★★★★☆
満足度★★★.5
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