妻に触れないジイサン
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夫婦あわせて、もうすぐ180歳。
中年となった3人の息子たちは、全員独身――。
明石家の主、新平は散歩が趣味の健啖家。
妻は、散歩先での夫の浮気をしつこく疑っている。
長男は高校中退後、ずっと引きこもり。
次男はしっかり者の、自称・長女。
末っ子は事業に失敗して借金まみれ。
……いろいろあるけど、「家族」である日々は続いてゆく。
飄々としたユーモアと温かさがじんわりと胸に沁みる、現代家族小説の白眉。
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本作、散歩好きの老人ののどかな日常を描いたものかな、
と思いつつ読み始めましたが、そうではありませんでした。
主人公、新平は全く食えないジイサンです。
夫婦合わせてもうすぐ180歳という、高齢の夫婦。
長男は高校中退後、引きこもりのまま。
次男はしっかり者のゲイで自称「長女」。
3男は事業を興すも失敗し借金まみれ。
3人皆独身。
しかしまあ、今時こんなことは珍しいというわけではありません。
この夫婦も、必要以上にこの事態を不幸とは思わず、
淡々と受け入れているようでもあります。
そこはいいですね。
新平は朝からストレッチにいそしみ、健康に配慮した食事をとって、日課の散歩。
かなりの距離を歩いてふらりと良さそうな喫茶店に立ち寄ったりして、
なかなか有意義な時を過ごしています。
そしてその後、今は仕事もしていないけれど、かつての仕事場は残してあって、
そこで1人気ままな時を過ごす。
部屋の棚にはこれまでのコレクション、怪しげな本やらビデオやらがびっしりなのですが・・・。
ふむ。
まあここまではいい。
お元気そうで好きなコトして過ごして・・・。
ところが奥様のほうは、運動は嫌いでほとんど出歩かない。
それでちょっと太り気味。
おまけに近頃少しボケてきていて、新平が出かける度に
「誰と会うのか?」と浮気を疑う。
散歩に行くだけといくら説明しても、納得しない。
・・・というのも、実のところかつて新平は実際に浮気をしていた時期があるのです。
そういうときの思いを引きずってなのか、
今、ボケてそのことに余計執着してしまっている妻・・・。
今までこんな風なボケ方をする人の話は読んだことがないなあ・・・、
そんなこともあるのか、と思うしだい。
しかしさらに読んでいけば、確かに、新平は今になっても女あしらいがうまいというか、
いかにも以前はモテた感じなんですよね。
それなのに、妻に対しては無関心。
というか、明らかに他の女性に対しての心遣い以下。
そしてさらに、ある時、妻が倒れたときの、新平の驚きの言動は・・・!
いや正直、それはないと思いました。
紹介文に「ユーモアと温かさ」とあるのですが、
私はそれは読み取れない・・・。
夫婦のあり方は確かに様々で、むしろ最後まで睦まじくという方が
稀なのかも知れないけれど・・・。
私にはモヤモヤの残るストーリーでした。
「じい散歩」藤野千夜 双葉文庫
満足度★★.5
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