南の島で起こる不思議なこと
* * * * * * * * * *
受け取る人が必ず訪ねてくるという不思議な絵ハガキを作る「絵ハガキ屋さん」、
花火で「空いっぱいの大きな絵」を描いた黒い鞄の男
などの個性的な人々とティオとの出会いを通して、
つつましさのなかに精神的な豊かさに溢れた島の暮らしを爽やかに、
かつ鮮やかに描き出す連作短篇集。
第41回小学館文学賞受賞。
* * * * * * * * * *
池澤夏樹さんが年少の読者へ向けて書いた本ということですが、
もちろん、大人でもとても楽しく読みました。
南の島・・・本文中では、その昔、日本に占領されていたことがあるとわかるくらいで、
具体的な名称は出ていません。
文庫の巻末解説、神沢利子さんによれば、それはミクロネシアのポナペ島とのこと。
著者は度々この島を訪れ、聞いた話をもとに描かれているそうです。
ティオは、この島のホテルを営んでいる家の少年。
サンゴ礁に囲まれたこの島は、観光客も多いらしく、
空港もあって、近代的なインフラも整備されています。
でも、大自然の中で人々は大らかでゆったりと過ごしています。
そして、古代からこの島にいる精霊のようなものも、未だ消え去らず健在らしい。
だからちょっと不思議な事が起こります。
そんなエピソードをティオの視点で紹介する連作短編集。
まるで美しい貝殻を詰めた宝箱のようです。
どの話も私は大好きなのですが、
冒頭の「絵ハガキ屋さん」が、まず読者のハートをしっかりつかみます。
ある青年が訪ねてきて、ホテルに置く「絵ハガキ」を作らないかというのです。
その絵葉書は、なんと受け取った人が必ずそこへ訪ねてくるという・・・。
ティオのお父さんはそんなのはインチキだと思うのですが、
ティオはなんだか面白そうだと思い、お父さんに作ることを薦めるのです。
やはり通常よりはずいぶん高いものでしたが。
出来上がった絵ハガキはぼちぼちと売れていくのですが、
本当に、その絵ハガキを受け取った人がこのホテルにやって来るようになる・・・。
私もそんな絵ハガキを受け取ってみたい!
そして巻末「エミリオの出発」。
ティオの住む島にある日、少し離れた島から多くの人々がやってきます。
その島は台風で壊滅状態になってしまい、
避難のためこの島にしばらく住むためにやってきたのです。
そんな中の一人の少年、エミリオとティオは親しくなります。
ティオの島も十分自然たっぷりでのどかなのですが、
エミリオの島はもっと近代化が遅れていて、
飛行機や大きな建物を見たことがありません。
生活に必要なものはすべて手作り。
ティオは聡明で器用で自立心に溢れたエミリオを尊敬しています。
やがてエミリオはカヌーを作り始めて・・・。
別の短編に、島の道路の舗装工事を、
ティオや他の島の子どもたち、そして大人たちまでもが
興味を持って日がな眺めているというようなシーンがありました。
こんな風に、島がどんどん近代化されていくことは
嬉しくてワクワクすることではあるけれど、
一方、そのために少しずつ損なわれていくものもあるのだと、
ここでは言っているのです。
池澤夏樹さんの視点が光ります。
全く申し分なく、美しくてなんだか幸せな気持ちになる一冊です。
「南の島のティオ」池澤夏樹 文春文庫
満足度★★★★★
![]() | 南の島のティオ (文春文庫) |
池澤 夏樹 | |
文藝春秋 |
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受け取る人が必ず訪ねてくるという不思議な絵ハガキを作る「絵ハガキ屋さん」、
花火で「空いっぱいの大きな絵」を描いた黒い鞄の男
などの個性的な人々とティオとの出会いを通して、
つつましさのなかに精神的な豊かさに溢れた島の暮らしを爽やかに、
かつ鮮やかに描き出す連作短篇集。
第41回小学館文学賞受賞。
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池澤夏樹さんが年少の読者へ向けて書いた本ということですが、
もちろん、大人でもとても楽しく読みました。
南の島・・・本文中では、その昔、日本に占領されていたことがあるとわかるくらいで、
具体的な名称は出ていません。
文庫の巻末解説、神沢利子さんによれば、それはミクロネシアのポナペ島とのこと。
著者は度々この島を訪れ、聞いた話をもとに描かれているそうです。
ティオは、この島のホテルを営んでいる家の少年。
サンゴ礁に囲まれたこの島は、観光客も多いらしく、
空港もあって、近代的なインフラも整備されています。
でも、大自然の中で人々は大らかでゆったりと過ごしています。
そして、古代からこの島にいる精霊のようなものも、未だ消え去らず健在らしい。
だからちょっと不思議な事が起こります。
そんなエピソードをティオの視点で紹介する連作短編集。
まるで美しい貝殻を詰めた宝箱のようです。
どの話も私は大好きなのですが、
冒頭の「絵ハガキ屋さん」が、まず読者のハートをしっかりつかみます。
ある青年が訪ねてきて、ホテルに置く「絵ハガキ」を作らないかというのです。
その絵葉書は、なんと受け取った人が必ずそこへ訪ねてくるという・・・。
ティオのお父さんはそんなのはインチキだと思うのですが、
ティオはなんだか面白そうだと思い、お父さんに作ることを薦めるのです。
やはり通常よりはずいぶん高いものでしたが。
出来上がった絵ハガキはぼちぼちと売れていくのですが、
本当に、その絵ハガキを受け取った人がこのホテルにやって来るようになる・・・。
私もそんな絵ハガキを受け取ってみたい!
そして巻末「エミリオの出発」。
ティオの住む島にある日、少し離れた島から多くの人々がやってきます。
その島は台風で壊滅状態になってしまい、
避難のためこの島にしばらく住むためにやってきたのです。
そんな中の一人の少年、エミリオとティオは親しくなります。
ティオの島も十分自然たっぷりでのどかなのですが、
エミリオの島はもっと近代化が遅れていて、
飛行機や大きな建物を見たことがありません。
生活に必要なものはすべて手作り。
ティオは聡明で器用で自立心に溢れたエミリオを尊敬しています。
やがてエミリオはカヌーを作り始めて・・・。
別の短編に、島の道路の舗装工事を、
ティオや他の島の子どもたち、そして大人たちまでもが
興味を持って日がな眺めているというようなシーンがありました。
こんな風に、島がどんどん近代化されていくことは
嬉しくてワクワクすることではあるけれど、
一方、そのために少しずつ損なわれていくものもあるのだと、
ここでは言っているのです。
池澤夏樹さんの視点が光ります。
全く申し分なく、美しくてなんだか幸せな気持ちになる一冊です。
「南の島のティオ」池澤夏樹 文春文庫
満足度★★★★★
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